「時代が求めた作品」スラムドッグ$ミリオネア ラフマニノフさんの映画レビュー(感想・評価)
時代が求めた作品
時代の流れ、というか、空気、というか。そういうものが求める
映画、というのが存在するんだなぁ、と、初めて実感できた作
品かもしれない。
一言でいれば、「おとぎ話」だなぁと。主人公ジャマールの境
遇や舞台となるインドの状況などはかなりシビアなれど、ジャ
マールのラティカに対する想いはどんなときでも、まさに一点
の曇りもなし。まるで彼の生きる全てが、ラティカと出会うため
に存在するかのよう。ここが全くブレないので、「なぜジャマー
ルの都合のいいようにクイズの問題が出るのか?」といった
ことは、どうでもよくなってしまうのだ。
いや、むしろ、「クイズの問題も、全てジャマールがラティカに
会うために運命が用意したものなのだ」と解釈できてしまう程、
ジャマールの想い、エネルギーが作品からあふれ出ている
感じ。この気持ち、分かるなぁ。と、過去の自分を思い出して
みたりも。(^.^)
クイズパートでは、ライフラインの使い方がうまかった。ジャ
マールの貧しさ、さらに、不正をやっていないと取り調べの
警部に感じさせる、「オーディエンス」。司会者みの…、じゃ
なくて、クマールの狡猾さを際立たせる、「フィフティ・ フィフ
ティ」…。
そして、最後の問題で本当に答えが分からず、唯一番号を
知っている知人である兄の携帯にかけ、ラティカが出るとい
う、心憎い展開につながる、「テレフォン」。ジャマールが兄の、
そしてラティカの消息を知る手がかりになり、最後に自由に
なったラティカと話す手段となるのが、兄の携帯電話という
のが、実にお見事。ラティカが車の中に置いてきた携帯電話
に出るシーン、「ジャマール?」は、思わず涙がでそうになっ
た。
ジャマールが生きてきた過程と、クイズの正解がリンクする
点も違和感がない。アメリカドル紙幣の問題などは、てっきり
タージ・マハルのアメリカ観光客から知り得たのだ、と思い
きや、もっと悲しい出来事で知ってしまった…、という意外性
などもあって、とてもよくできたと思う。また、ジャマールが
凄まじい競争率(のはず)である、『クイズ$ミリオネア』へ
出場できた裏技なども、さりげなく盛り込まれているところな
どからも、脚本のうまさを感じた。
作品全体を流れるエネルギー、そしてラストのダンスでの
締めくくり。見終わった後の一種の爽快感は、『ダークナイト』
とは全く正反対で、2008年はまさに、「光と影」の2つの作品が
両極端で存在したんだなぁ、などと感じたりも。アカデミー賞
での扱いも、まさに「両極端」だったし。(^^ゞ