劇場公開日 2009年4月18日

スラムドッグ$ミリオネア : インタビュー

2009年4月13日更新

08年度のアカデミー賞において、作品賞、監督賞を含む8冠に輝いた超話題作「スラムドッグ$ミリオネア」がついに日本公開を迎える。世界的に人気を博しているTVクイズショー「クイズ$ミリオネア」のインド版で勝ち上がるスラム育ちの青年ジャマールの運命とともに彼の過酷な半生を描いた本作について、ダニー・ボイル監督に話を聞いた。(取材・文:編集部)

ダニー・ボイル監督インタビュー
「あるがままを受け入れるということを学んだかな」

スラム育ちの青年ジャマール(左)と司会者のクマール。息詰まる対決の行方は…
スラム育ちの青年ジャマール(左)と司会者のクマール。息詰まる対決の行方は…

製作費は約1400万ドルという低予算、劇中の言語の3分の1は外国語(ヒンズー語)、そしてスター俳優は一切出ていない作品ながら、見事アカデミー賞8冠に輝いた本作。ボイル監督は成功の理由をこう分析する。

「受賞した瞬間を今でも思い起こすよ。この映画の成功はストーリーによるところが大きいと思う。一人の少年、つまりはスラムドッグという勝ちそうもない弱者が、自分の夢のために絶え間なく努力をして、逆境から学んだことを活かしながらすべてを乗り越えていき、最後に大きなものを勝ち取るというストーリー。これは、我々が住むこの世界のどこかで必ず起こっている話だし、国や宗教にかかわらず皆が共感する話だと思うんだ。それに世界同時不況という厳しい局面の中、人々がその長い旅の後に希望を求めていたり、オバマ大統領が当選したことに見られるような変化を望んでいたりと、より外のものに対してオープンになっている傾向も影響していると思う」

ダニー・ボイル監督
ダニー・ボイル監督

そう語るボイル監督に、本作の映画化を決意させたのは「フル・モンティ」のサイモン・ボーフォイが脚色したシナリオ。監督は原作よりも先にシナリオを読んだという。

「とにかく素晴らしいシナリオだったんだ。ムンバイの貧しいスラム街出身の青年が夢のある世界に入り込んでいくところに惹かれたし、貧しい世界と豪華な世界の対比も面白かった。単に小説の脚色ということではなく、ほとんどサイモン自身の芸術作品になっていたよ。もちろん小説のアイデアを活かしているんだけどね。彼の脚本には方向性があるから好きなんだと思う。まるで建築家のように、設計図を描き、始まり、中盤、終わりを作り、そこにシーンを積み上げていく。建築するように積み重ねながら、しばらくするとどこに向かっていくかが見え始める。そういう脚本が好きなんだ。方向性がなくフワフワしているような、調子ばかりいい脚本は好きじゃないね」

ボイル監督と同様にオスカーを受賞したボーフォイのシナリオだが、主人公ジャマールをはじめ、兄のサリーム、初恋の人ラティカら3人のメインキャラクターの性格が類型的との声もあった。

弟ジャマールとは異なり、 暴力と金の世界に入っていった兄のサリーム
弟ジャマールとは異なり、 暴力と金の世界に入っていった兄のサリーム

「それは正にその通りなんだけど、この兄弟2人と女1人というキャラクターのパターンはボリウッド映画では非常に多く見受けられるものなんだ(笑)。兄弟の方は、最後に再会することもあるんだけど、大抵は母親を失っている。そして兄弟のどちらかは、もう2度と傷つきたくないということで、暴力を他者に向けることで自分を守ろうとする性格となり、もう1人はキレイな心を保ちながら、すべてを乗り越えて他人の中にも善を見出すことが出来るキャラクターというパターンなんだ。本作のマリク兄弟のパターンはまさにそれを踏襲している。その他、ボリウッド映画でよく出てくるパターンが“ロスト・ガール”という要素。主人公が好意を持っている女性が突然目の前から消えてしまい、探し求めるというパターン。これも今回の映画には含まれているよね。

あとサイモンは『ムンバイで撮ると、どうしたって(チャールズ・)ディケンズ(※)っぽくなってしまうんだ』って言ってたよ。というのも、ムンバイというところは、現在凄まじい成長を遂げていて、多くの人間が行き交っているだけに、キャラを強く押し出して叫ばなければ、自らの存在をアピールできない街なんだ。だから、ストーリーテリングの上でもキャラクターたちを強く出して、動きを大きくする必然性があったんだよ。これはディケンズの小説に出てくるキャラクターにも共通することで、メロドラマチックであったり、現実だったらこんなことありえないっていう偶然が頻発するんだ」

>>ダニー・ボイル監督インタビュー その2

※ イギリス・ビクトリア朝時代(1837~1901)の国民的作家。代表作に「オリバー・ツイスト」「クリスマス・キャロル」「デビッド・コパフィールド」「二都物語」「大いなる遺産」など。

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インタビュー2 ~「スラムドッグ$ミリオネア」がオスカーを獲ったのは「運命」(2)
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