スラムドッグ$ミリオネア : 映画評論・批評
2009年4月7日更新
2009年4月18日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
人と場所は違えども、これは典型的な“ハリウッド映画”である
ムンバイの若者の現在と過去を、英国人監督が描き出す本作には、笑いと涙、夢と冒険、アクションとロマンス、ありとあらゆる要素が詰め込まれている。基軸は、困難に打ち克つサクセスストーリー。そう、人と場所は違えども、これは典型的な“ハリウッド映画”である。
クイズ番組に出演した青年が全問正解を前にして、不正を疑われ司会者に告発される。逮捕された挙げ句、拷問まで受けるのだが、まさかあり得ないと思わせないカオスがこの街にはある。高層ビルとスラムが混在する大都市が、過激な出来事にもリアリティをもたらすのだ。なぜ無学の彼がクイズに答え続けられたのかというミステリーの下、青年の生い立ちが明らかになっていく。その忌まわしく陰惨な過去には、格差社会、幼児虐待、裏ビジネス、宗教暴動、急激な近代化といった、インド現代史が凝縮されている。社会の底辺を駆け抜けてきたからこそ、必要な知識を身につけていたという一見あざとい構成。しかし、「トレインスポッティング」に原点回帰したダニー・ボイルの疾走感あふれる演出は、インドの現実をデフォルメしていく上で実に効果的だ。
スピルバーグの映画会社ドリームワークスがインド資本となり、ハリウッドが衰弱しきったご時世、アメリカは失われたドリームをこの地に見て、大量のオスカーを与えたのだろう。いや、同時不況にあえぐ今、インドのエネルギッシュな夢物語は、世界中で歓迎されるに違いない。
(清水節)
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