グラン・トリノ : インタビュー
アカデミー賞4冠に輝いた「ミリオンダラー・ベイビー」以来、約4年ぶりとなるクリント・イーストウッド監督・主演作「グラン・トリノ」が今週末いよいよ日本公開を迎える。孤独な老人とモン族の少年の魂の交流を描いた本作において、映画史上最も口の悪いキャラクターの一人ウォルト・コワルスキーを演じたイーストウッドが、再びカメラの前に立った理由や本作のキャラクターについて語ってくれた。(文・構成:編集部)
クリント・イーストウッド インタビュー
「グラン・トリノ」は、今年79歳になるイーストウッド最後の監督・主演作と噂される作品。74歳の時に出演した「ミリオンダラー・ベイビー」(04)の時にも「カメラの前に出るのは、これが最後になる」と語っていたが、本作で再びカメラの前に立ったのはどういった理由なのだろうか。
「このウォルト・コワルスキーというキャラクターは、私と同じぐらいの年齢だし、同じような性格だからかな。でも私はあそこまで気難しくはないし、あのキャラクターほど、物事に対して否定的でもないよ(笑)。でもどこかで、自分にも同じような感情がたくさんあることに気づいてもらえると思う。とにかくウォルトは誰とも何のかかわりも持ちたくないし、自分と違うタイプの人間を特に嫌がるんだ。そこがこのキャラクターの面白いところで、彼はものすごく偏見に凝り固まった人間なんだが、さまざまな人との関係を通して、そこから抜け出していくんだよ」
今回イーストウッドが演じたウォルトは朝鮮戦争に従軍した経験を持つ元自動車工で、「ルーキー」(90)以来となるポーランド系アメリカ人。代表作「ダーティハリー」のハリー・キャラハンや「ミリオンダラー・ベイビー」のフランキー・ダン同様、心に強い怒りと鬱屈を抱えたキャラクターだ。
「ウォルトは、自分の街から文化が消えていった様子にとても心をかき乱されている。大事な家族を失い、成長した子供たちとは仲が良くない。そして、近所の変化も気に入らないんだ。彼はミシガン・デトロイト近郊で育った。おそらく彼と同じように、自動車産業に従事する人がたくさんいたはずだ。また、彼のようなポーランド系アメリカ人の比率がかなり高い。だから、慣れ親しんだ街が(アジア系移民によって)様変わりしていく様子を見ると、彼は気が滅入っていくわけだ」
そんなウォルトの閉ざされた心を開いていくのが、彼の隣に越してきたアジア系モン族のロー一家。「ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場」で、海兵隊の訓練を通じてアフロアメリカンやヒスパニック系の若者との異人種交流を描いたように、本作でも再び異人種との諍いと交流を描いている。
「脚本のニック・シェンクが、以前働いていた工場にモン族の人たちが大勢いたんだ。そこで彼はモン族の人たちと知り合いになり、移民である彼らを映画で採り上げるのはいい方法だと思ったわけだ。だからほかの民族文化を描いても良かったのかもしれない。だが、私はモン族の人たちがとても好きで、彼らをとても尊敬している。それに、彼らがこのプロジェクトに見せた熱意に対しても深い敬意を抱いているんだ。だって、『いや、映画なんかにかかわりたくない』とあっさり断ることもできたんだからね。でも自分たち民族を映画で描きたいと思うほど興味を持たれたことを彼らはうれしく思ったんじゃないかな。
彼らはラオス、タイ、ベトナムの高地に住んでいた農耕民族で、たぶん朝鮮半島や中国にもいると思う。だが、彼らはそういう場所を離れ、ある意味、独立した“国民”のようになった。皮肉なことでもあるね。というのは、そういう(移民の)若い世代は民族の言語を覚えないことが多い。だが、この映画では若者全員が英語とモン語の両方が話せる。だから、彼らはアメリカの中でさえ、一族の中で言葉を受け継いでいるんだ」
92年の「許されざる者」以降は、“贖罪”をテーマに映画を作ることが多かったイーストウッド。本作でも“贖罪”は描かれるが、それ以上に、「センチメンタル・アドベンチャー」「ハートブレイク・リッジ」「ルーキー」同様、次世代を意識した“伝承”の映画でもある。しかも、その伝承には、血の繋がりよりも精神性を重視するイーストウッド独自の姿勢が反映されている。
「映画の中で、ウォルトのセリフに、『俺は、甘やかされた、性根の腐った我が子よりも、この人たちともっと共通点がある』というのがある。結局はそういうことだ。大きな点をひとつあげると、彼の子供たちは離れたところで好きなことをやっており、孫たちはじいさんが死ねば何を相続できるかということにしか関心がない。そこに尽きるね」