劇場公開日 2009年5月16日

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「笑えない、米国版ニュースペーパーのコント芝居」ブッシュ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5笑えない、米国版ニュースペーパーのコント芝居

2009年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画がはじまってしばらく、米国版ニュースペーハーのコントを見ているようで、何度も声をたてて大笑いしそうになった。しかも、ブッシュ役のジョシュ・ブローリン(中身のない人間を絶妙に演じている。この名演がなければこの作品は面白みのない政治エンタテイメントにしかなっていなかっただろう)をはじめ、副大統領チェイニーが「ジョーズ」のリチャード・ドレイファス、国務長官ラムズフェルドが「羊たちの沈黙」のスコット・グレンと、主要な役を名優が演じているものだから、ただのそっくりさんのショーではないリアル感も見る側には楽しいものだった。
ところが、見ていくうちにだんだんと暗澹たる思いが募って、笑っていられなくなり、逆に不愉快な思いをしたまま、映画が終わってしまった。その不愉快さを決定的にしたのが、イラクへの戦争の決定を下す会議のシーンだ。
この会議の最中、軍担当のパウエルは戦争の意味のなさを話す。しかし、チェイニーは戦争でアメリカが得られる石油利権の重要性を主張、この水と油のような対立に決定を下しのは、バクダットまで侵攻せずに大統領二期目をつとめられなかった父親の仇どりしか考えないブッシュだった。それはつまり、政治理念も思想もない人間が大統領をすると、利権しか考えない者たちに国民のための政治が蹂躙される瞬間なのである。この決定で、アメリカの多くの志願兵たちの命が無駄になり、アメリカの信頼そのものが失われたことに、この会議の連中はどう思ってきたのか、それを考えるとこのあとのシーンにも私は不愉快だけしか感じなかった。

もちろん、この作品の内容はフィクションであるから、すべてを事実ととらえるのはいかがかとは思う。実際に、ブッシュの父親やパウエルが描かれているほど常識人だったとは思えないし、ブッシュ本人も描かれているほど政治的な理念が全くなかったわけではなかったとは思う。しかし、政治理念や思想のない者が今後も日本や大国の首長に付く可能性はあるわけだし、その場合、さまざまな利権が蠢き、自分のことしか考えない「悪の枢軸」を担う政治家たちによって国民が蹂躙されるのだから、この作品は政治に直接携わらない我々への警鐘になっていることは評価していいと思う。特に、二世議員の多くに政治理念がないことは勉強になった(麻生も鳩山も二世。日本の未来は暗いなあ)。

ブッシュが大統領になった頃、とある新聞のコラムに中学生の頃のブッシュのエピソードが書いてあった。それによると、ブッシュは友人たちとの草野球で、自分の有利なように野球のルールをわざわざ変えて、自分だけ楽しんでいたようだ。そんな人間が、メジャー球団のオーナーや大統領になるようじゃアメリカも終わりか、とそれを読んだとき思ったのだが、最近、今のアメリカの現状は、ブッシュの頃から始まっていたような気が強くするのである。

こもねこ