「超然とした冷めた学生の心の動きを表す雰囲気は出ていたのではないか」ノルウェイの森 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
超然とした冷めた学生の心の動きを表す雰囲気は出ていたのではないか
総合:75点
ストーリー: 75
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 75
音楽: 75
原作のように透明感のある映像の撮影のやり方と、でしゃばらず静かに哀しさを帯びて、後には狂気を帯びて流れる音楽は、世俗の生活感から離れた感じがして心地良かった。世間にも常識にも縛られないが、悪く言えば世間に交わることが出来ない。自分の存在意義を見つけられないでどこか冷めたまま空虚に生きている脆い若者の姿を描いている。菊池凜子と松山ケンイチの演技の良さもあって、そんな危うさの漂う原作の雰囲気は出ていたように思う。だけど水原希子はいかにもモデルという凛とした美しさがあって、それは自分の持つ原作における緑の人物像とは違う感じがした。彼女の科白もあまりに文学的で、現実に喋られると自然な科白というよりもまるで劇でも見ているように感じる。濡れ場で最後までブラつけたまま性交しているとか他にも気になる部分もあるけれど、雰囲気の出し方などでいい部分もあって自分はけっこう気に入った。
さて男臭くてむさくるしい主人公の寮に来た緑は「ねえ、ここにいる人たちってみんなマスターベーションしてるの?」なんて聞くが、それは自分たちはそんな人たちと違ってるんですよと主張しているように聞こえる。彼らが他の人々と交わらず超然的なのはこのような優越感を持っているからのように感じられ、一般人とは違うこういう人種だからこその視点の話だなというのは感じていて、それは原作でも似たような印象を持った。この時代のことについてたいして知っているわけでもないけれど、現在よりもはるかに貧乏だったはずの学生たちであるだろうに、この庶民的な生活感のない登場人物たちってどちらかというと特殊なほうに属するんじゃないかと思う。それは著者の視点がそうなんだろう。まあだからこそこのような作品になったわけで、これが作品を根本を形作る特徴になっているんじゃないか。