オーストラリア : 映画評論・批評
2009年2月17日更新
2009年2月28日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
従来のハリウッド映画にない神秘性が吹き込まれた一大冒険ロマン
スコアレスドローに終わったサッカー日本代表とのワールドカップ予選の熱戦、東京都の2倍の面積が焼けてしまったという大火災など、オーストラリア関連の話題が続く今日この頃。「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン監督のもとにハリウッドで活躍する映画人が集結し、母国オーストラリアの魅力を謳い上げるアドベンチャー大作を完成させた。
イギリスからやってきた優美な貴婦人と、現地の無骨なカウボーイが織りなす恋。映画的なダイナミズムを喚起するにはもってこいの大自然のロケーションを惜しみなく活用し、「風と共に去りぬ」のごときクラシックなロマンとスペクタクルを現代の観客に体感させる。前半は1500頭の牛が大地を疾走するキャトルドライブ、後半は日本軍の爆撃にさらされた登場人物のサバイバルが、スクリーンを揺らさんばかりの勢いで繰り広げられる。
これだけでは往年のハリウッド大作の単なる焼き直しだが、主役ふたりの旅の道連れとなる先住民アボリジニとの混血少年の存在が本作のミソ。ニコラス・ローグの「美しき冒険旅行」でも描かれていた成人の旅立ちの儀式“ウォークアバウト”の時期を迎えたこの少年は、ニコール・キッドマン扮するヒロインを健気に慕いながらも、彼女の望まぬ道を選びとっていく。歴史の大きな変わり目に芽生えたもの、失われたもの。大団円のハッピーエンドとはだいぶ趣の異なる神秘と悲哀の入り混じった終幕に、この“オーストラリア映画”を世界に放ったラーマン監督の誠実さがうかがえよう。
(高橋諭治)