「考えることには成功だけど」ブタがいた教室 masakoさんの映画レビュー(感想・評価)
考えることには成功だけど
確かに命や食に対して子どもたちに考えさせる、という意味ではアリだと思いますが、私は「ブタを飼って食べよう」という提案自体にえ?と思ってしまいました。農場とかで何匹もの動物達を食用に飼うのとは違うじゃないですか。小学校で1匹の動物を飼う=ペットのような存在になってしまうのはわかりきっているじゃないですか。ブタを飼おうというだけだったらまだわかるんですよ。だけど飼って食べようという提案をすること自体がねぇ。やっぱりちょっと残酷。
子どもたちがPちゃんと名づけた時も、星先生は一応反対します。それは先生は名前をつけちゃったら愛情がわいてしまうのがわかっていたから。だけど結局子どもたちに押されてPちゃんと名づけてしまうんですよ。この先生の中途半端さがどうにも納得いかなかったんです。このブタは最後には食べるんだから、食用なんだから、ということをちゃんと子どもたちにわからせてあげられてないじゃんって。
そして起きる「食べる」「食べない」論争。
このディベートシーンは、確かに言わされた台詞なわけではなく、子どもたちが自分達の言葉でしゃべっていることがわかります。うまくしゃべれていなかったり、何を言ってるのかよくわからなかったりもするのですが、逆にそこがよかったりもするんですよね。そしてPちゃんを食べる、食べない論争は白熱して、泣いちゃう子がいたり、つかみ合いの喧嘩が始まったり。Pちゃんを食べるなんて信じられない、可哀想という子もいれば、Pちゃんを飼い出してから豚肉が食べれなくなってしまった子がいたりもするし、どこで育ったかわからない豚肉は食べられるけど、Pちゃんの肉は食べられないという子もいます。
その間先生はずっと冷静でただ見守っているだけです。意見を述べることもない。ディベートにも参加しない。子どもたちに考えさせます。確かに子どもたちに考えさせるということは成功したかもしれない。でもこの先生がどこまで考えてブタを飼育して食べようと提案したのだろうか?と考えてしまいました。飼育して食べると言っておきながら、どうするかは子どもたちに結論を委ねるって、無責任じゃない?
それだったら、飼う時にきちんとみんなにちゃんと説明して、最後には食べることになるけどいいか、ということを全員にわからせた上で、みんなが理解してそれでも飼いたいと言ったら飼うべきじゃなかったのかなぁ。実際少なくとも半分の子はPちゃんを食用のブタではなくて、ペットとしてみちゃっていたわけだし。
そしてPちゃんを「食べる」「食べない」論争は、Pちゃんの面倒をみたいという3年生に引き継ぐか、食肉センターに送るか、という論争に変わっていきます。つまり「食べる」にしても食肉センターに送るという方法が取られるわけ。もうこの時点で最初に先生が提案した「育てて自分達で食べよう」というのからは離れちゃってますよね。
そして二分されたままの意見の最後の一票は星先生。この先生が1日考えた、というのも矛盾してるような気が。だって最初から先生は「食べる」って言ってたんだから、3年生に引き継ぐか、食肉センターか、だったら、考えるまでもなく食肉センターでしょ。なのになんで1日迷うわけ?結局先生の方針がしっかりしてなかったってことですよね。そして最後に先生が出した結論も、なんでそういう結論を出したのか説明するべきだったはず。少なくとも半数は先生の意見とは反対の意見を、持っていたわけでしょ。だったら先生がどうしてその結論を出したのか、ちゃんと説明してあげないと。先生が始めたことなんだから、それを教える義務があるはずなんじゃないかなぁ。
「食べる」「食べない」論争ですが、私は食用として飼うことを決めて飼いだしたなら「食べる」派です。でも何せこの場合、飼い出す時に子どもたちの意見をきちんと聞いているわけではないし、先生は食べるって言ってるけどそんなことしないんじゃないかと思って、ペットとして飼おうと思った子もいるじゃないかな、と思うんですよ。一度でもペットとして考えちゃったら、そりゃあ食べられないわな。たっぷり愛情注いで育てちゃったらそりゃ無理ですよ。そう思ってる子にこのブタを「食べる」というのはかなり酷な気がします。
子どもたちに真剣に「命」や「食」について考えさせることには成功したかもしれないけれども、ペットとしてPちゃんのことを見ていた子供の心は傷つけてしまっていたのではないかと心配になりました。子どもたちが、『人間が生きる為に、こうやって他の動物の大切な命をもらってるんだよ』、ということを素直に理解できていれば良いですが・・・。
そしてそれを理解した上でPちゃんを食べるというのが本当は一番良かったんではないかと思いますけどね。というか、先生はそういうことを教えたかったはずなんですよね。先生の方針がしっかりしていないから結局それをきちんと教えきれなかったような気がします。大切なブタの命をもらうんだから、わずかな肉も無駄にしてはいけないんだよ、ということを。
映画が面白いとかよかったとかそういうことを考える以前に、そうやっていろいろ考えてしまう映画でした。少なくとも感動作ではなかったですね。
この映画はエンドロールで考えさせられるという点では興味とさまざまな意見の言い合える映画ですが、議論の以前に1)この場合のブタは家畜か、ペットかのスタンスがはっきりしていない点、2)教員は何を教えたかった目的が不十分(家畜の飼育が大変、食物の大切さ、命の大切さ、学級で人と話し合うこと)等逆に言えば消化不良のような映画でした。