ホビット 思いがけない冒険 : インタビュー
ピーター・ジャクソン監督が「彼しかいない」と言い切った
マーティン・フリーマン=ビルボの存在
「ロード・オブ・ザ・リング」(以下「LOTR」)のピーター・ジャクソン監督が再び中つ国に降り立ち、「LOTR」の60年前の冒険を描く「ホビット」3部作の第1部、「ホビット 思いがけない冒険」が12月14日に公開される。今回の主人公ビルボ・バギンズには、英ドラマ「SHERLOCK シャーロック」で注目の実力派マーティン・フリーマンが抜擢。そのフリーマン本人が、観客にとってのビルボという存在について明かす。(取材・文/渡辺麻紀)
「コミカルな部分に隠された真実を演じなくてはいけない。だからこの役はとても難しいんだ」
ピーター・ジャクソンがそう言い切るビルボ・バギンズ役を演じることになったのはマーティン・フリーマン。ジャクソンにとっては「彼しかいない」というくらい、ワン&オンリーの存在だった。
「オーディションを受けて採用になったものの、僕のスケジュールの都合で降りざるをえなくなった。人生でこんなに落ち込むこともないってくらい落ち込んでいたんだけど、驚くことにまたチャンスが舞い込んできた。信じられなかったよ」
ジャクソンはフリーマンを諦めきれず、自分たちのスケジュールを彼にあわせたのだ。もちろん、彼ならくだんの「とても難しい」演技が出来るからにほかならない。
「僕がピーターに求められたのは、コミカルな演技とシリアスな演技、それを同じテンポで演じることだった。これはすごくチャレンジングなんだけれど、楽しくもあった。なぜって、僕はどちらとも好きだからだよ。シリアスなドラマの中にあるコミカルな瞬間、コメディの中にある感動的な瞬間。そういうのはとても演じがいがある」
とはいえ、フリーマンがずっと原作の「ホビットの冒険」のファンだったかというと、そうでもない。この仕事が決まってから読み、そして好きになったいう遅咲きのファンだ。
「最初はビルボより断然ストーリーに惹かれたんだ。なんて面白いんだってね。これは僕にとっていい兆候だった。いくらキャラクターが素晴らしくてもストーリーがつまんなかったら意味ないだろ? ビルボに共感するようになったのはだいぶ経ってから。彼は観客の目であり耳であるということに気づいてだ。彼は観客に最も近い存在なんだよ」
突然現れた13人のドワーフと、魔法使いガンダルフに言われるがまま、彼らの旅に同行するハメになったビルボは、いわば巻き込まれ型のキャラクターだ。
「ビルボは、快適な袋小路屋敷での生活にさよならして、初めて三次元の世界を体験する。最初は確かに“同行”するだけだったけど、それがいつしか“自分の旅”に変わっていくんだ。ありていに言ってしまえば成長するキャラクターだけど、これもまた役者としては演じ甲斐があるわけでさ」
「LOTR」ではこのビルボ、彼と同じイギリスの大ベテラン、イアン・ホルムが演じていた。
「最初は映画を何度も観て彼のしゃべり方や演技を研究していた。でも、あるときからそれを止めて自分流にしようと決めたんだ。だってこれは僕のビルボの冒険だから、僕のやり方でいいんじゃないかって」
つまりそれは、自分のビルボ・バギンズを創造することが出来たということ。これもまた、ジャクソンがフリーマンにこだわだった理由なのだろう。