「心地よくも危険な作品です」アキレスと亀 あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)
心地よくも危険な作品です
2008年製作の北野武監督作品でございます。119分。北野監督の作品は、すべてが好きという訳ではありませんが、なぜか殆ど観ています。「HANABI」がベネチア映画祭の最高賞を受賞した時は、海外で観ました。
日本映画を海外で観ると、見え方がまったく異なるもので、日本文化を世界に広めるという大義もどうしてもつきまとってしまうものだと思いました。あまり言葉数を使わず、間を使って意思の疎通をする日本語の奥ゆかしさは、北野監督の作品には栄えていて、そんな所が好きです。
本作は物心ついたころから絵を描き続けた少年が、そのまま大人になり中年になるが、一回も陽の目を浴びないままでいるという悲しく、そしてある意味ドキッとする内容です。
この主人公は、ただの絵が上手い人なだけで、才能はまったくない。そして、この才能のなさが、あまりにも重く、そして決定的に人生を不幸にしていきます。それでも、人生のすべてが悪い訳ではなく、そんな彼だからこそ素晴らしい奥さんをもらうことだってできたのです。
この作品が照らし出すのは、幸せの定義に勝ち組・負け組という二者択一を排した先にある、なんともアンニュイな領域です。逆に言うと、幸せを考える時に、勝ち負けを入れること自体が不毛きわまりない、ということなのでしょう。
アート性の強い作品なのですが、アート自体をパロディにしている北野監督の屈折したメッセージ性が、なかなか日常生活では味わえない、そして人生が本来もつリアリティをあぶりだしていきます。
正直、これを観てすがすがしくはなれませんが、何故か力んでいることがバカバカしく思えて、笑ってしまえるようにまでなります。これは書いたらいけないことかもしれませんが、本作を観ると、メディアの世界がほんとにくだらなく思えてきました。
とてもいい映画です。