劇場公開日 2008年9月20日

アキレスと亀 : インタビュー

2008年9月20日更新

ビートたけしが映画監督北野武となってから、約20年。14作目にして、ようやく辿り着いた到達点ともいえる新作「アキレスと亀」は、売れない画家の半生と彼に連れ添う妻の献身的な愛を描いた現代の芸術残酷物語。自らの資質に向き合いながら悶々と苦しむ男を描き、先のベネチア国際映画祭でも喝采を浴びた北野武監督に話を聞いた。(取材・文:編集部)

北野武監督インタビュー 「『アートをやってるだけで幸せである』ということに気づいたんだ」

二人三脚で芸術を突き詰める夫婦に待ち受ける運命とは……
二人三脚で芸術を突き詰める夫婦に待ち受ける運命とは……

──「TAKESHIS'」「監督・ばんざい!」という苦悩に満ちた作品のあとに、この「アキレスと亀」を撮り終えて、監督の中で何か変わったことはありますか? 今回の映画を見ると、何かを突き抜けたような印象を受けますが?

「さあ、これからはヤクザ映画、チャンバラ映画をバンバン撮ろうって思ってるんだ(笑)。外国の映画祭で客が立ち上がってしまうような映画をやろうってね。こういう『アキレスと亀』みたいな映画って、スタイルとしては王道で、まあまあの結末があって、オレもこういうの撮れるなって感じがあって、このやり方は出来るなと思ったよね」

──ただ、今回の映画に至るまでは相当苦しんだのではないですか?

「実は『TAKESHIS'』が当たってくれなくて困ったんだよね。新しいとか前衛的だとか言われながらも実は全然なんでもなくて、評価は悪いわ、客は入らないわでボロボロで(笑)。それで、頭きて『監督・ばんざい!』を撮ったわけだけど、怒っているのにまったく相手にされなかった。それで仕方ないから普通に撮ったのが今回の『アキレスと亀』なんだ。よく考えたら『アートはやってるだけで幸せである』ということで、映画監督は映画監督でいられるだけで十分だということに気づいたんだよ。作品が評価を受けたり、客が入ることは考えるのは止めようっていう諦めの境地みたいな映画だからね、この映画は(笑)。だから『監督・ばんざい!』は今から思うと図々しかったな。映画監督でいられることで十分なのに、まだ当てようとか儲けようとか考えていたのがあの映画なわけで、今回の『アキレスと亀』はそれをすっかり諦めてしまった映画なんだよ」

ベネチアの常連、北野武監督
ベネチアの常連、北野武監督

──今回の作品は画家を主人公にして、多くの絵画が登場しますが、北野監督にとって、画を描くことと、映画を撮ることは表現者として同じと捉えているのでしょうか?

「同じという言い方をすると、野球とゴルフくらいの差はあるね。同じ球技だけどね。基本的には同じ丸い球を使うくらいで、映画と絵画は画ということだけであまり共通点はないかもしれない。あと、絵画の場合は圧倒的な想像力を必要とする場合と、もの凄くシンプルなものと両方あるけど、映画は、1秒間に24枚の画を使うわけだから、割と説明してくれるんだよね。作る方にとっては、絵画の方が難しいんじゃないかな。評価されるものに関しては。はなから違う手法とか、いまだかつて見たことの無い絵を描くとか、そういうことを考えると映画は、編集やらCGでごまかすくらいで、違う手法とかはありえないわけだし。この映画はね、暇に飽かして描いた絵が溜まっちゃったから、この描き溜めた絵を使って撮ろうって思ったんだよね。だけど、絵を見るととても才能のある絵には思えない(笑)。それで才能のない画家の話になったわけ」

──青年期の主人公・真知寿をたけし軍団の柳憂怜さんが演じてますが、キャスティングした理由は?

「柳は『3−4X10月』で主役やらして、そのあとちょっと仕事があったんだけど、難しいこといいだしちゃって、しばらく映画に出なかったの。だけど彼のカミさんも可哀想だし、ここらで主役をやらせるかって思ったんだよ。名前もあのまんまカタカナでユーレイだと格好悪いと思って、仕事が来るように漢字に直して、中国人の役者みたいにしたわけ(笑)。まあ、下手ではないから、真面目にやれば仕事も来るだろうと思ってたら、案の定、次の仕事がきたらしいよ」

北野監督自身が描きためた絵が数十点登場する
北野監督自身が描きためた絵が数十点登場する

──今回の映画では、今までの北野映画には登場してこなかったタイプの女性が、主人公・真知寿と結婚して献身的に彼を支えますが、なぜ、こういったキャラクターを登場させたのでしょうか?

「この映画をすごい残酷な話にすると、真知寿っていうのは悪魔で、子供のときに絵が上手いとか言われてしまって、芸術というとんでもない麻薬に冒されてその気になってしまい、彼に関わる周囲の人は皆不幸になってしまったということなんだよね。当然、このカミさんだって、真知寿と一緒にいて色々と辛いことが起こったりして、不幸なわけだけど、考えようによっては、この不幸も2人の関係においては『2人で芸術やれればまあいいじゃないか』という映画なんだよ」

──しかし、その献身的な妻は真知寿を一度見放しますよね?

「この映画の妻はうちのカミさんだね。だんだんオレがおかしくなって、見放して、また元に戻ってっていう自伝的映画なんだよ(笑)。ただ、今はこういう昔風の話はあまりないじゃない。カミさんが男性を見切るからね。これは芸術夫婦の話だけど、大阪の落語家とか漫才師の世界にも通じるものがあると思うよ。下手すると桂春団治とか藤山寛美の世界だね。でも芸術家ではあまり聞かなくて、(版画家の)棟方志功なんかは、カミさんが彼を支配していたみたいだしね。ただ普通に少年期、青年期、中年期で、大人しく真面目に絵を描いてるとカミさんとの愛がちゃんと成就してしまうじゃない。そういう映画だと間抜けな賞を獲ってしまうから、狂ってしまった方が映画的には凄いかなと思ったんだけどね」

──監督の奥さんは、今回の映画を見て何か言ってましたか?

撮影中の北野監督(右) 目標はポルトガルの巨匠オリベイラ?
撮影中の北野監督(右) 目標はポルトガルの巨匠オリベイラ?

「うちのカミさんはオレの映画なんて見る気ないもん。涙も枯れ果てたって(笑)。でも、こんな映画だったら喜んじゃうよ。アンタにこんな優しさがあればとか言ってね。たしか『HANA-BI』のときは画面に石投げてやろうかと思ったって言ってたな。あれはカミさんのために銀行強盗して旅する話でしょ。だから、この偽善者!って言われたよ(笑)」

──前の2作の頃は「そろそろ映画監督は引退」ということを口にしていましたが、今回の映画を見るとまだまだ作り続けてやるという意志が感じられました。

「引退、引退っていうと、急いで見なきゃなんて思うかなと思って、作戦練ってるんだけどね。よくいるでしょ、死ぬ死ぬって騒いでてなかなか死なないヤツ。TVだって止めるって言えば視聴率が上がるんじゃないかとか、色々作戦を考えてるんだよ。これであと20作くらい撮ってたら『またかよ!』って言われるだろうけど、100歳くらいで撮ってる人がいるでしょ、あれをやってやろうかなって思ってるんだ(笑)」

>>柳憂怜インタビュー

インタビュー2 ~柳憂怜が語る北野映画の魅力とは?
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