劇場公開日 2008年9月20日

アキレスと亀 : 映画評論・批評

2008年9月9日更新

2008年9月20日よりテアトル新宿、銀座テアトルシネマほかにてロードショー

北野武の死生観を色濃く反映した売れない画家の半生

映画の冒頭で、古代ギリシャの哲学者ゼノンが考えた、俊足アキレスはいつまでも亀に追いつけないという《アキレスと亀のパラドックス》が紹介されている。その答えは難解で、アートの探求に終わりがないことの比喩だろうと思うが、売れない画家の半生を描いた物語は分かりやすくて楽しめる。主人公の名前を真知寿(マチス)にしたお遊びはともかく、絵画と出会う少年時代、仲間や恋人ができる青年時代、さらに悪戦苦闘の中年時代と、伝記映画の形になっていて、それぞれの時代を別の俳優が演じる。

北野映画は「HANA-BI」や「Dolls(ドールズ)」がそうだったように、暴力と死の誘惑をテーマにしている。この作品でも真知寿の父は倒産して芸者と心中し、義母は自殺、友達は事故死する。真知寿が描くことに執着するのは、アートの普遍性に死を超越する魅力を感じるからではないだろうか。しかしアートの評価は曖昧で基準がなく、画商に影響されながらも、へこたれずに描き続けるのがいい。中年の真知寿(ビートたけし)が妻(樋口可南子)や娘に犠牲を強いるエゴイズムがブラックでおもしろい。真知寿がバスタブの中に顔を突っ込むシーンでは、ぎりぎりまで追い込まれた人間の哀しさと滑稽さに笑ってしまった。

北野武監督がピカソ、ウォーホール、ポロック、バスキアの手法を真似た絵が登場するなど、こんなにたくさんの挿入画を自分で描いたことに驚く。彼の死生観を色濃く反映したこの作品は、アートに対するちょっと屈折した愛に満ちあふれている。

(垣井道弘)

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