2012 : インタビュー
「キンキーブーツ」「アメリカン・ギャングスター」など幅広いジャンルの作品で活躍する英国人俳優キウェテル・イジョフォーは、本作では地球の危機をいち早く察知する地質学者のエイドリアンに扮している。物語のキーパーソンを演じたイジョフォーに話を聞いた。(取材・文:編集部)
キウェテル・イジョフォー インタビュー
「エイドリアンの決断は賛否両論。僕は正しいと思っている」
――ローランド・エメリッヒ監督は「すべての観客が共感できる映画」と自信を持っていましたが、ご自身はこの作品のどこに一番共感しましたか?
「このジャンルの映画はいろんな意味で魅力的だと思うんだ。まず壮大な世界観を映すことができる。そして、それぞれのキャラクターが持つ希望や恐怖などの人間ドラマを描くことができる。ストーリーの中に様々な感情が表現されていたことに特に魅力を感じたんだ」
――難しい専門用語が飛び交う地質学者を演じていますが、役作りにはどのように取り組みましたか?
「学者の役ということで、自分が何について喋っているのか理解しないといけないと思い、地質学についてリサーチしたんだ。でも実際にそういった専門用語が出てくるのは最初の方だけ。エイドリアンの旅はそこから始まり、さまざまな人間関係や個人的心情が交差するストーリーになっていくんだ」
――この映画ではかなりVFXが使われていますが、実際には何もない状態で演技する難しさはありましたか?
「それほど難しくはなかったよ。僕は元々舞台出身で、舞台上では2本の枝を森だと思って演技することもあるから、それと大して変わらなかったよ。それにローランドは完成したシーンがどうなるのか説明するのがうまいんだ。ちゃんと理解した上で演技できるわけだから、特に困難なことはなかったかな。でも完成した映画は予想よりずっと大きな世界観で描かれていて、ローランドの想像力には驚かされるばかりだったよ」
――監督はディザスター・ムービーを多く手がけていますが、本人はいたって穏やかそうな人ですよね。そんな監督との仕事はいかがでしたか?
「ローランドは本当にナイスガイで一緒に仕事がしやすいし、穏やかな人柄だから周囲に安心感を与えてくれるんだ。そんな彼がディザスター・ムービーばかり撮っているのは確かに意外だよね。以前、ローランドになぜ世の破滅ばかりを描くのか聞いたことがあるんだけど、『それがラブ・アフェアなんだ』って言ってたよ(笑)」
――エイドリアンは誰を救うべきか葛藤する役ですが、これまでの人生で重大な決断を迫られたことはありますか?
「もちろん決断を下すことはあるけど、幸い映画のような重大な決断をする機会は一度もなかったよ(笑)。それに僕はどちらかというと本能に従うタイプで、作品を選ぶ際も、脚本を読んだときの心の反応で決めるから、あまり深くは考えていないんだ」
――もしエイドリアンのように事前に世界の終末を知っていたとして、ご自身ならどんな行動を起こしますか?
「おそらくエイドリアンと同じような行動を取ると思うよ。この映画の面白さのひとつに、倫理的な問題がエイドリアンに投げかけられるシーンが挙げられる。そこでエイドリアンはある行動を取るんだけど、彼の決断を正しいと思うかは賛否両論じゃないかな。僕自身はエイドリアンは正しいと思っている」
――監督はエイドリアンを「この映画の良心」と言っていましたが、彼はヒーローであるということでしょうか?
「もしこれから大災害が起こると知ったら、誰に伝えるべきか? 誰を生かすべきか? 伝えたらパニックになるのではないか? などいろいろなことを考えさせられると思うんだ。まず政府が情報を得て、誰にどこまで知らせるべきかを早急に判断しなければならない。エイドリアンは政府の一員になってはいるけど、それは彼が便利な存在だからだ。もし彼がこれから起こる大災害の発見者でなかったら、政府からは見向きもされない人間だったはずだ。彼は政府の一員であっても中心人物ではないので、自分の意見が政府に反映されることはない。そこでエイドリアンは政府から独立した立場で、自分なりの倫理的な判断をすることになるんだ。それを英雄的だと感じる人もいれば、そう思わない人もいるんじゃないかな」
――ディザスター・ムービーは撮り尽されている感があるのは否めませんが、この映画にしかない魅力は何ですか?
「この映画が誰も見たことのない映像になっているのは確かだよ。ローランドはディザスター・ムービーのマスターで、ローランド・ムービーと呼んでもいいと思う。そんな彼の作品の中でも、今回は最大規模の映像になっているよ。ただ、それはこの映画の魅力の半分で、もう半分はストーリーのすばらしさにある。さらに、『この惑星は脆いのだから大事にしなければならない』と意識させるメッセージ性もある。エコロジーな映画ではないんだけど、そういう視点にも触れる作品になっているんだ。ほかの映画監督が『2012』を見たら、きっとディザスター・ムービーに立ち戻りたくなると思うよ。それだけいろんなドラマが生まれやすいジャンルだからね」