脳内ニューヨーク : 映画評論・批評
2009年11月17日更新
2009年11月14日よりシネマライズほかにてロードショー
“カウフマン・ワールド”全開のハイセンスで知的なアート系映画
主人公はニューヨーク在住の劇作家兼演出家コタード。創作面での評価は高いものの、妻と一人娘に逃げられ、言い寄ってきた魅力的な若い娘をも取り逃がす彼は、原因不明の体調不良に悩まされ、私生活では崩壊の危機に瀕する。そんな彼が心気一転を図って取り組むのは、ニューヨーク内の巨大倉庫にニューヨークのセットを組み立て、そこで自身の日常生活の細部まで演劇として再現する……という奇妙なプロジェクト。ところが数分前に起こった出来事をすぐに演劇化する、といった事態にまで発展するのだから、実人生と演劇の区別さえつかなくなり、彼の生活はさらに混乱は増すばかりだ。そもそも彼の人生を忠実に演劇化する以上、舞台に“演出家コタード役”を登場させないわけにいかない。だとすれば、今リハーサルが行われつつある演劇の“演出家”は誰なのか?
スパイク・ジョーンズ監督の「マルコヴィッチの穴」やミシェル・ゴンドリー監督の「エターナル・サンシャイン」など話題作の脚本を手がけ、現代映画の新潮流を語るうえでのキーパーソンである脚本家チャーリー・カウフマンがついに映画監督デビュー。物語(演劇)が現実(生活)を追い越し、虚構のニューヨークが現実のニューヨークを飲みこむ……といった前述の2作を上回るスリリングな展開に誰もが舌を巻くほかない。遊び心も交えたハイセンスで知的なアート系映画の神髄を見せつけ、“カウフマン・ワールド”全開のこの傑作は、パワフルさと複雑さ、そして他に類を見ない面白さであなたを未知の迷宮へと導くだろう。
(北小路隆志)