「満開の桜がまぶしい」イキガミ かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
満開の桜がまぶしい
自ブログより抜粋で。
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原作自体とても感動的で、映画化を期待するに十分な内容だったけど、期待した一番の理由は、この映画が瀧本智行監督のデビュー作『樹の海 Jyukai』(2004年)と同様、命にまつわるエピソードを綴った準オムニバス形式だったこと。
『樹の海 Jyukai』も命のありようを描ききった素晴らしい佳作だったけど、その卓越した演出力に感動のエンターテイメント性も加味されたら凄いことになるんじゃなかろうかと。
で、期待に胸膨らませて観た結果、期待に応えるどころか、期待を遙かに上回る見事な出来映えでした。
世界観的には荒唐無稽なマンガそのもののSF。だけど、サイエンスチックな要素はほとんどなくて、架空の世界を舞台にした社会派映画といった趣き。
まず特殊な世界観を丁寧に提示し、国の横暴による不条理を描いたエピソード1。
その不条理の裏側に隠された国家の闇を垣間見せるエピソード2。
そんな国にささやかな抵抗をみせるエピソード3。
一貫してダークな世界を描きながらも、それぞれが感動的な逸話となっていて、最後には希望の光も感じさせる周到な運び。
ただ、エピソードの1と3はわかりやすい感動話だが、2つめは風吹ジュン演じる女性議員の意味するところがわかりにくかったように思う。
不安を煽るザラついた映像に、監視カメラのモノクロ映像。
そういう裏打ちがあってこその満開の桜がまぶしい。
淡々と繰り返されるモノレールの映像で異世界感を表現してしまう的確な演出。
静寂の中の引きずる音、不意の事故にハッとさせられ、エンディングはやっぱりあの歌でしょうという思いに応えるように流れ始める「みちしるべ」。
いやもう、言うこと無しですよ。
監督として劇場公開作3作目にしてこんな傑作を世に送り出してしまうなんて、瀧本監督の今後が楽しみな一方、ハードルを上げすぎじゃないかと余計な心配までしてしまう。
先に「最後には希望の光も感じさせる」と書いた。
自分は笹野高史演じる課長の最後の言葉を小さな光と感じたが、観る人によっては“個人の無力”ととるかもしれない。
国家の繁栄のために切り捨てられる個人。
今住んでいるこの日本の行く末への漠然とした不安と重ねずにはおれない、切り捨てられる側の自分。
個の犠牲無しに成立しない国家の繁栄は正しいと言えるのか。なんて、しょせん負け犬の遠吠えなのかもしれない。
いや、そういう弱気こそが不安の正体で、切り捨てる側の思うつぼなのではないか。
だからこそ、ラスト、藤本は“そこ”に視線をぶつけるのだ。その瞳に光はあると信じたい。