シークレット・サンシャインのレビュー・感想・評価
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鬱を扱った映画の中でも飛び抜けた大傑作
鬱というトンネルを抜けるまでの長い道のりを描いた映画は少なくないが、中でも飛び抜けて過酷で切実で乾いたユーモアまであって、なおかつ説得力があるのが本作ではないか。しかもトンネルの先に見いだせそうな希望があまりにもか細そくてほのかであり、ここまで映画と付き合ってそれか、それしかないのかと絶望しそうになると同時に、イ・チャンドンはなんと信頼に足る映画作家かと感動もしてしまう。自分が知る限りではイ・チャンドンの最高傑作だし、鬱を扱った映画の中でも絶対にヌルいとは言わせない金字塔だと思っている。
チョン・ドヨンの芝居には「たまげた」 “見えないもの”との息詰まる対峙
「パラサイト 半地下の家族」は鑑賞済ですか? ソン・ガンホに惚れた方、今後もその思いを貫いた方が良いです。かなり素敵な恋なので。参加作品の大半がクオリティ◎。私は“良作兄貴”と呼んで崇めています。そんな彼が、寡作ながらも“全てが逸品”のイ・チャンドン監督とタッグを組んだのが「シークレット・サンシャイン」。本当、何度見ても飽きません。
主人公は、亡き夫の故郷「密陽」に愛息子と共に引っ越してきたイ・シネ(チョン・ドヨン)。ピアノ教室を開き、新たな一歩を踏み出した彼女に、予期せぬ悲劇が…。映画は時として活力を授けてくれますが、本作が放つのは心を削ぐ衝撃。容赦なし、情けなしの展開に挫けてしまうかもしれません。でも、正面切ってタイマンを張れる作品との出合いって、結構貴重で、幸せな機会だと思うんです。濃密な142分、真正面から向き合ってみてください。時に痛みを感じますが、損する事は一切ございません。
チョン・ドヨンの芝居は、「驚いた」というよりも「たまげた」と表現した方が適切かもしれません。特筆すべきは“見えないもの”との対峙。電話越しの通話相手、周囲から消えてしまった者たち、そして、陽の光一筋にも存在しているという“神”。それらは彼女に慟哭すら許さず、言葉を毟り取っていきます。カンヌ主演女優賞の受賞も納得の演技。予告編にも使用されている教会での一場面は、今でも脳裏に深く刻み込まれています。
さて“良作兄貴”が扮しているのは、自動車修理工場を営むジョンチャン。「常に空回りする俗物」といったコメディリリーフなのですが、シネにとっても、鑑賞者にとっても“救い”となっていきます。ただひたすらに寄り添うだけ。それがどんな行為よりも、優しく、愛おしく見えてくるんです。こういう役どころを演じさせたら、ソン・ガンホは本当に天下一品。マジで“リスペクト”。
余談:「集会」のシーンがめちゃくちゃ好きなんです。「嘘」の歌を聴きながら日々仕事に励みたいんですが、音源がどこにもない……。
タイトルなし(ネタバレ)
「許そうと思った加害者をすでに神が許していた…」
救いを信じたところからの失望。そこからはじまる神への不良行為。息子を亡くした主人公女性の悲しみが行き場もなく衝動的に見え隠れする姿が痛々しい。
信仰への皮肉か?いや、そんなことはテーマではないだろう。もし皮肉があるとすれば、追い詰められたとき誰でも陥るかもしれない人間性の危うさに対してであろう。
構成的には、主人公の見栄っ張りな性格にしたことや周辺の人の軽い会話がこの映画への共感を薄めているのではと思ってしまった。
まさかの告白
シネは、幼い息子ジュンと亡き夫の故郷である密陽に引っ越してくる。自動車整備工場のジョンチャンが、なにかと世話をしてくれてる。そんなときジュンが誘拐され、シネは絶望に突き落とされる。宗教に救われるシネだったが。
シネの気持ちを思うと、何度か落ち込む場面があり悲しい。その中でも、刑務所での面会シーンが一番衝撃。心穏やかになったのに、相手からそんな告白をされた、シネの気持ちは十分理解できるもの。そういう気持ちにさせる演出が秀逸。
密陽を英訳すると、シークレット・サンシャインとシネは言う。
二人の熱演に心が揺れまくる
タイトルであるシークレット・サンシャインがキーワードとなっており、常に頭の中で想起されながらの鑑賞となる。
話としてはショッキングな展開ではあるが、そこが本題ではなく、そのあとの主人公の心情変化を一緒にジェットコースターのように追っていく。
感情揺さぶられる演技に、自分まで体が震えてくるが、そこで鍵となるソン・ガンホ。
ピントは合わずとも、後ろで見守っているソン・ガンホの存在感が常にあり、俯瞰的、かつ純粋な視点へ鑑賞者を戻してくれる。
神、救い、赦し、家族愛、恋愛など様々なあり様が描かれるが、視えないもの、の中に大事なものがある。それを視えないながらに探すことが生きていくことなのかもしれない。
2023年劇場鑑賞116本目
「あなたのため」の胡散臭さと「下世話」の温かさ
かけがえのない息子を殺した犯人が、「神から赦された」と穏やかな笑みを浮かべている姿を見て、平穏を保ち続けることのできる人間は、どれくらいいるのだろう。パレスチナとイスラエルの問題にもつながる普遍的な問いが、観客に深く刺さってくる。
一度は、心から救われたと感じた神に対して疑念を抱き、様々なやり方で抗ってみせた主人公が、絶望的なまでに、人智を超えた「神」の存在を感じざるを得なくなった美容院のシーンから、ある意味で「神」とは対極にいる「下世話」な人々の温かさに救われていくラストまでが圧巻だった。特にブティックの店主とのやりとりだけで、自分は星5の価値があった。
イ・チャンドン レトロスペクティブ4Kにて鑑賞
救いがない・・・
亡き夫の生まれ故郷『 密陽 』( ミリャン )を再出発の地として息子と二人移り住む、シングルマザーのシネをチョン・ドヨンが熱演。
明るく生きようと頑張るシネに好意を寄せる人の良いジョンチャンをソン・ガンホが好演。
彼が得意とする ″ 憎めない、いい奴 ″ ジョンチャンの、温かみのあるユーモラスな表情、ふと漏らす台詞、絶妙の間、ソン・ガンホの演技に魅せられた。
映画館での鑑賞
そこにある恩寵
主役のシネ氏の、その時々の存在感がすごい。
密陽という街に夫を交通事故で亡くしたシネ氏が一人息子のジュンとやってくる。
密陽はどんな街?とシネはきく。
普通の街だと、答える社長と呼ばれる男、
街にくる道中で出会った男がいろいろ世話を焼いてくれる。
ほんとに東アジア韓国の普通すぎる街、つまり男社会、2007年の作品、美しく色褪せた街を映す名作を今2023年の目線でみるからだろうか、男と女の求められ定められた役割分担とその強制が意識的に感じられる。社長のところに集まる男は女を卑下すべき存在、性的存在としかみてないような描写あり、不動産屋、いろいろコネがある地元の有力者、教会の長老などと名があるものは皆男で、チンピラ中学生でさえも女は男に一方的に殴られている。日本にも韓国にもある全く普通の街。
コーチのつっかけサンダルを履いてセンスの良いジーンズ姿で、子どもの髪型もおしゃれにメッシュなどいれて小さな田舎町でピアノ教室を開きソウルの大都会からやってきた。ソウルに帰りたくない、ソウルではみんなに見られてる誰も知らないところに来て暮らしたかったと言っていたけど、かえってみんなに見られるような街にしかも夫の故郷にしかも夫の思い出話も何もなし。というコーチのサンダルからなんだか意味深なオープニング。最初は自然体のように、都会的な雰囲気振る舞いをしていたが、何かを無理してなんとなく自分を大きく見せていたのかなと、あとから感じられる。自由な結婚をして、実はダメンズだったのだが悲劇の死別をし、目の中に入れても痛くないくらい可愛い息子がいて。家父長制の父に恨みをもち、おそらく夫も死んでよかったと思っていただろうし、シネのことが好きで無理矢理感満載に紳士的に付きまとうソンガンホ演じる社長は俗物と一蹴し、でも、なんか籠の中の鳥水槽の中の魚のような、胸がつかえるような自由というのが自分の人生、、
やがて誘拐事件がおこり無惨に息子を殺され、まさかの宗教に救われ、神の心は見えるのか、見えると信じて殺人犯を赦すというところまで、過呼吸だった自分を持ち直し取り戻すが、殺人犯は刑務所内ですでに信仰により神に罪を赦されたというではないか。この部分の緊張感となんかギャグ並に平穏な受刑者の、舐めてんのか感がすごいシーン。
そこからのシネのよろめきぶりが半端なく、神の愛は神の悪意となり素の自分もイビルとなる。
見えたと思った、見ようとしなければ見えない神の愛はまた見えなくなり、だからそんなものはないとみんなに思い知らせる行動に出る。全ては嘘でまやかしと。万引きからスピーカージャックまでのシーンもすごい。
シネの変化をじっとそばに佇み見つめる社長。
意気揚々とソウルから引っ越してきたリアリストで自意識強いシネ、神の愛に溺れ光の輪に入るシネ、神に見捨てられ絶望と悪に包まれる過呼吸のシネ、退院してそこにいつもあった光、秘密でもあり秘密でもなく誰にも降り注ぐ陽光の下に在るシネ、この役者さんの変化がすばらしい。そしてじっと耐える、たたずみ、待つしがない社長俗物男のソンガンホがまた素晴らしすぎる。母親との電話のシーンも秀逸だ。全てのシーンが背景光人物描写演技緻密に人と社会の在り方を抉るように撮られていてどのシーンも緊張感であふれる。日常。私ここにいて良いのかと落ち着かない感じの2時間半。
最後、赦しも恩寵も訪れない。庭で髪を切るシネ。光を集めるように鏡を持つ社長。ふわふわと髪の切れ端が陽光の下、風に持っていかれ、雑然とした小さなその土地に降り注ぐ陽光、やさしく人々の暮らしをなぞうような風。恩寵はそこにある。重力を跳ね返して。
おまけ
ミーハーなこと言えばソンガンホが素晴らしすぎてイチャンドン作品の中ではこれが一番好きかも。イガイガギスギスのこの世の中において、その尊くもゲスいお姿で救世主のように見守ってくださるソンガンホのありがたさよ。監督作品の中では痛いけど痛すぎない、割とストレートに受け止めできる作品だと思う。それもこれもソンガンホ様、、、?
痺れた
良かった。
まず緊迫感のあるシーン作りが上手い。
特に、面会シーンと、終盤の美容院シーン。
面会のシーンでは、度肝抜かれた。
こちらが神への信仰で一時的に障壁を乗り越えて、
相手を許すのだ、と思ったらあの仕打ち。
相手も、神への信仰によって、神から許しを得たのだと。
神の裏切りに震える主人公の表情が忘れられない。
(そして後ろにいる気づいていないソンガンホ…)
あと、美容院のシーン。
犯人の娘と偶然にも対面してしまう。
この瞬間、2人だけの間に何かが流れる。
2人以外は気付いていない交流。
ここから一気に緊張感が増す。
娘はやがて、目に涙を溜める。
2シーンともやや都合いい偶然がある事はあるのだが、
ストーリー展開として、素晴らしいと思った。
彼女が子供を失った後で、宗教に辿り着くのも納得だった。
最初は馬鹿馬鹿しくみていたそれも、
何かに縋るしかなくなった状況下で様々な事を試みて、辿り着く結論なのならば、それもくだらない事などとは言い切れない。
ラストシーンも本当に陽射しの様な暖かさが残る。
美容院で娘から髪を切られることを拒否する主人公。
つまり、娘を「許すこと」ができなかった。
(この後に、地元の服屋の女主人と会って
笑い合うのがとてもとても良かった…)
許すことが出来なかった主人公は、
庭で自ら自分の髪の毛を切る。
「許せない」ことを認めて、正直な自分で生きるのだ。
そして、「秘密の陽射し」が差し込む、
「許さない」ことで彼女は自分のままで居続けることが出来るのだ。
それこそがまさに、彼女の中のシークレットサンシャインでは無いだろうか。
一筋縄でいくものでもない
イ・チャンドン レトロスペクティヴにて。
信仰と救い・赦しについての映画。
それも信仰に対する疑問をグリグリと突きつけてくるし、そのために(と言うべきか)なかなかにキツい出来事が続く。特に「赦し」については主人公の思いはよく分かる。
私自身、「信仰」は自分がただ「赦し」や「救い」を得たいが為に持つものと思っているので、赦されたい「あいつ」が飛びついたのもよく分かる。
だから主人公はそこからまるで堕天使(=サタン)のように神に挑戦し、挑戦しながら空を仰ぐ。
主人公は結局人との繋がりに「救い」を見いだしたのだろうか。でもその繋がりの先にはやはり神がいる。
割り切れるものでもなく、一筋縄でいくものでもない…
チョン・ドヨンの凄まじい演技にはこころが震えるが、ソン・ガンホの愛らしさもまた素晴らしい。
不器用な男演じると上手いなー
神と俗物
陽だまりは暖かいのか?
うーん、ちょっと。
世の中や信仰の不条理はあれど、
感じる気になれば、あるいは感じる力をはぐくめたら
自分の周りにはひだまりのように
あたたかな救いもあるものだ。
って、事がたぶん言いたいのですよね?
こんなに映画館を出るとき顔がうつむいてしまう映画は久しぶり。
最後にいくらか希望を感じさせなくも無いけれど。
でもなあ。
映画に真面目に人生とか哲学を感じたい人は好きかもしれません。
出ている役者さんたちの演技はほんとにすばらしいと思います。
素晴らしいからこそ観ているのが本当にキツカッタともいえます。
まあまあだった
性格のあんまりよくないママさんが、金持ち風を吹かせたために子どもを殺されて、宗教に救われたと思ったら、神様が犯人の方をむしろ救っていたために、自分が救われない気持ちになって頭が狂う。そんなどうしようもない話で、ソン・ガンホにも、あんな嫌な女やめとけよとしか思えない。そうは言っても子どもが死んじゃうのはつらい。
人間のどうしようもなさを描いているのだろうけど、長くてつらい。もっと感動したかった。
凄まじかった
・何をすれば、何をしたら、シネを救う事ができるのか、が全く想像がつかなくて、この状況設定の秀逸さが凄まじかった。軽口の冗談が原因で息子が誘拐殺人にあった後に救いを求めて信じてなかった宗教に入って、穏やかになれたかと思ったら犯人も救われていた事をきっかけに、唯一の救いだった宗教にも絶望した状況の凄惨さがとてつもなくてたまらなかった。
・好きになるけど言えずにいるなかで邪険にされても、支えになりたいという姿勢が痛々しかったのと、どうしてあんなに冷淡にされて付き合ってられるな、と感心した。また、あぁ、この人、シネのとこ好きなんだなってわかる感じが何だかリアルだった。
・集会を邪魔するために流したCDを何故万引きしようとしたのかが少し気になった。結果、買ったのか、こんな事に金使いたくないとかだったのか。流した曲の歌詞が良かった。
・最初に入ったブティックでインテリアの指摘をするシネの空気読めない感が怖かった。ブティックの人も初対面で何様と陰口を叩いてたのが、いつの間にか仲良くなってたのが謎だった。ラストで冒頭の意見を取り入れてたのも、何で?と思った。
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