TOKYO! : インタビュー
ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノという3人の鬼才監督が、東京の街を独自の視点で描く3部作映画「TOKYO!」。先陣を飾るミシェル・ゴンドリー監督作「TOKYO!/インテリア・デザイン」は、ガブリエル・ベルの原作コミックを基に、映画監督志望の恋人と上京したものの、自分の生き方に悩むヒロインの姿を描く。プライベートでもパートナー関係にあるゴンドリー監督&ベル、主人公のヒロコ、アキラに扮した藤谷文子&加瀬亮にそれぞれ話を聞いた。(取材・文:編集部)
ミシェル・ゴンドリー&ガブリエル・ベル インタビュー
「新しいものを生み出すためにあえて混乱を用意した」(ゴンドリー)
「日・英の翻訳を繰り返して脚本を作るプロセスは面白かった」(ベル)
――ゴンドリー監督は「事前に決め事を作らない」という方針で、テストを行わずに撮影されていたそうですね。
ゴンドリー:「あまり秩序がありすぎて全員が足並み揃えて同じ方向に進んでも、1つのことしか生まれない。だから(現場では)あえて混乱するような状況を用意したんだ。そうすることで僕たちのイメージとは違う方に脱線して、映画にダメージを与える危険性もあったけど、同時に新しいものが生み出される余地もできる。それに、たとえ混乱する状況であっても、僕はいつも俳優たちに居心地のよいエネルギーを与え、フレンドリーに接するよう務めていたよ。『アクション』の声をかけた瞬間、それまで生き生きしていたのが急に硬くなってしまい、『カット』の声がかかるとまたリラックスしていたりするよね。それをちょっと変えたかったんだ」
――先日の記者会見の席で、加瀬さんが「アキラ(映画監督志望の青年)はゴンドリー監督だ」とおっしゃっていましたが、実際のところはどうなんでしょうか?
ベル:「完全にそうとは言えないけど、確かにミシェルの要素はあると思う。チャーミングなところ、自然なところ、クリエイティブなところなんかそうね。でも、原作コミックには別のモデルがいたのよ。だから、今回映画用に脚本を執筆する段階で彼の経験も反映されたんだと思うわ」
ゴンドリー:「結果的に自分の性格の一部がアキラに反映されているのは間違いないけど、アキラを通して自分自身を表現しようと思ったわけではないよ。ただ、キャラクターに質感を与えるためにそういう必要性があったんだ」
――東京という場所で日本のキャスト・スタッフと仕事するのはとてもチャレンジングだったと思いますが、その経験で得たことは何ですか?
ベル:「脚本を書いてる段階で、ひとつひとつの言葉を的確なセリフにするためにかなり力を注いだの。それを一度日本語に翻訳してもらって、さらに別の日本の方にまた英語に戻してもらうと、けっこう表現に差異が生じていたのよね。だから改めて正確な日本語になるようにスタッフの方とディスカッションを重ねて脚本を作り上げていったわ。そういうプロセスはとても面白かった」
ゴンドリー:「直訳できない言葉もあったので、いろんな言葉の意味合いを聞きながらセリフを選んでいったよ。僕らの脚本が日本文化にマッチしていないところもあったけど、最終的にそのセリフを使うかどうかは僕たちが判断したんだ」
ベル:「そういう意味で、私たちは常に暗闇の中で作業しているようなものだった。もちろん日本語は理解できないし、細かいニュアンスなどは完全にスタッフの皆さんを信頼するしかなかった。でも、そのお陰で言葉を吟味できたのは良かったことだと思うわ」
ゴンドリー:「それと、普段だったら完全に僕が現場をコントロールできるんだけど、今回はコミュニケーションの問題でそれができなかったから、コントロールするのを諦めなくてはならなかった。その分、エネルギーを演出だけに向けることができた。これもポジティブな一面だと思うよ」
藤谷文子&加瀬亮 インタビュー
「何でも自分で作りたがる“手作り感”はミシェルならでは」(藤谷)
「アドリブに困ったら監督をイメージして演じた」(加瀬)
――「TOKYO!」のプロジェクトに参加してみて、ゴンドリー監督ならではだと感じた撮影エピソードがあれば教えて下さい。
藤谷:「手作り感ですね。すぐ何でも自分で作りたがるのはミシェル・ゴンドリーならではだと思います。オモチャを扱うようにそこにあるものでスモークマシンを作ったりしていましたから」
加瀬:「子供が工作をしているような感じで映画を作っていたので、それは見ていて面白かったですね」
――監督はカットをかけずにカメラを回しっ放しにしていたそうですが、実際どのように撮影が進められたのですか?
加瀬:「撮るシーンを最初から最後まで演じたら、そのままカメラを止めずにもう一度最初から演じるんです。だから演技のときも素のときもゴチャゴチャに全部撮り続けていましたね」
藤谷:「例えば部屋の電気を消すシーンだったら、演技が終わったら自分たちで電気を付け直しに行って初めからやり直す、という感じですね。ちなみに、同じシーンを繰り返し撮らない場合でもカットがかからないので、そのときはひたすらアドリブを続けていました」
加瀬:「これをアドリブで続けるのかと思うと大変でした(笑)。僕はそういうとき監督をイメージして、監督がブリッ子しながら毒を吐いたり、無茶なこと言ってくる感じをアキラという役に取り入れました。そういうところも監督の愛すべき一面だと思うんですよね」
――アドリブで演じて採用されたのはどのシーンですか?
加瀬:「もはやどのシーンが使われているのか分かりません(笑)。でも長いシーンをカットされたのは覚えています。アキラが自分の映画を上映した後、観客が(上映中にスモークマシンから出た)煙で涙を流していて、アキラはそれを感動して泣いていると勘違いしてテンションが上がってるんです。その後、良い気分で『大成功だった!』とか言いつつ酔っ払いながら帰ってくるシーンがあったのですが、それが丸ごとなくなってました。スモークマシンとセックスマシンをかけてジェームズ・ブラウンのモノマネとかしてたのに(笑)」
藤谷:「最高の酔っ払い演技だったのにね。私は笑いをこらえるのが大変でした(笑)」