たみおのしあわせ : 映画評論・批評
2008年7月8日更新
2008年7月19日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
カルトムービーの要素を持った、今年最大の問題作
オダギリジョー×麻生久美子。「時効警察」ファンは、この顔合わせ&タイトルに決して惑わされてはいけない! 確かに、2人のほのぼのしたデートシーンには小ネタが飛び出し、ライブハウスのオーナー役では三木聡自身も顔を出す。だが、本作の監督は“熊本課長”こと岩松了。作・演出家としての彼は、観客を笑わそうとする以前に多くを語らない。つまり、各シーンの意図を観客に委ねており、そこに笑いが付随する仕掛けだ。そのため、登場人物全員が謎を抱えている(ようにみえる)。小林薫扮する屋根裏に住む男は新聞の三面記事に登場しそうだ(と思ったら、実際にいた!)し、唯一のフツウキャラにみえた麻生演じる婚約者すら、次第に不気味にみえてくる。それだけに、三木作品以上に、覚悟が必要な、観る人を選ぶ作品といえよう。
しかも、それだけではモノ足りなかったか、監督は一概に名作映画のパロディとはいえない、とんでもラストを用意(正直、試写室のイスからズリ落ちそうになった)。かといって、これを完全な失敗作と断言できないのも、本作のスゴさ。ここまで自我を通した監督には、ただならぬ潔さを感じるし、「時効」チームを始め、撮影現場の和やかな雰囲気が伝わってくる。とにかく、作り手の愛情に満ち溢れているのだ。次々に繰り出される、“なぜ、なに?の嵐”は次第にボディブローのように効き始め、結局また観てしまう……。これぞ、カルトムービーの要素を持った、今年最大の問題作だろう。
(くれい響)