4ヶ月、3週と2日 : 映画評論・批評
2008年2月19日更新
2008年3月1日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー
陰鬱さよりも力強さが印象に残る
まず新鮮さに心を奪われる。長回しと呼ばれるカットを割らない撮影法を多用し、音楽もなく、静けさの中に主人公の息遣いだけが響き渡る。まるで彼女の苛立ち、憤りを表すかのように。しかしユニークではあれスタイル自体が新しいわけではない。このスタイルを通して描かれる登場人物の生命力、若い監督らしい勢いが、作品に生き生きとした新鮮さを与えたのだ。
舞台は約20年前、共産主義時代のルーマニア。当時違法だった中絶が描かれ、トーンはかなり暗い。にもかかわらず観終わった後に残るのは、陰鬱な印象よりも力強さの方だ。主人公を真正面から捉えずに常に背景の中に入れ込んで撮影しているのは、中絶そのものがテーマではなく、これは彼女たちが抱えるたくさんの問題の1つに過ぎないことを表している。また物語をサスペンスフルにしている緊迫感は主人公が特別な状況下にいるからではなく、当時の社会が人々に与えていたプレッシャーに他ならない。20年前主人公と同じ大学生だった監督は、重苦しい時代の空気を見事に再現したが、同時にそんな状況下で生き抜く術を見つけていく人々の逞しさをも浮かび上がらせた。どうにかなるだろうという幻想は存在しない。どんな手を使ってでも自分で何とかしなければ永遠にどうにもならない。そのあまりに厳しい状況に、チャウシェスク政権下の社会がどんなものであったのか、リアルに認識させられる映画である。
(木村満里子)