「困ったことに美味いんだよな」おくりびと Kjさんの映画レビュー(感想・評価)
困ったことに美味いんだよな
穢れとの対峙というテーマは興味深いが、どうも深さは感じられない。形式美で職に対する一定のリスペクトを示すが、それだけで押し切るのは厳しい。人間社会が避けられない死と引き受けるものの存在。初めての仕事である孤独死のような所にこそ、職の意味あいがあったのではないかと思う。
脚本の作り込みのうまさに対して、本筋が見えづらい。確かに笹野高史がそこにいることは意外ではあるが、本木雅弘・杉本哲太の中盤でのやり取りを、死を共有する段になって、どのように総括する機会なのだが、それを横取りしているように思う。石文のくだりは劇的な道具になっていて少し陳腐で、死に対比的な性的衝動や白子・チキンの食シーンも形式的に感じられた。主人公の隠し事の多さは褒められたものではなく、なによりも内装や衣装、チェロなど洒落ていて、現実感から遊離している。後、広末涼子の演技は話を通してどうも苦手である。
その中で、山田辰夫のシーンが味深かった。生と死に揺り動かされる見事な演技。公開翌年に逝去。惜しまれる。
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