20世紀少年 : インタビュー
ついに今週末に公開となる「20世紀少年」第1章。第3回目の特集は、この世紀のビッグ・プロジェクト3作のメガホンをとった堤幸彦監督のインタビューをお届け。日本一多忙な映画監督に、この3部作に挑んだ理由や本作を演出する上での戦略などを聞いた。(取材・文:編集部)
堤幸彦監督インタビュー
「僕は大体どんな企画でも『自分に出来るのかよ?』って思うんです」
■「20世紀少年」との出会い
——まず堤監督と「20世紀少年」との出会いを教えていただけますか?
「監督の話をいただく前から知っていて、全部は読んでないけど、飛び飛びに読んでました。超有名漫画家の作品なので、いわゆる一般的な風評として、知っていたという程度でしたね」
——原作に登場する1960年代後半から70年代の前半にかけて、監督は何をやっていましたか?
「普通に中学生をやってましたよ。大阪万博についても、漫画に描かれているのと同じで、クラスの中で行く人と行かない人がはっきり分かれたり、中学の放送室でロックミュージックをかけるか、かけないかで揉めたりとか、この漫画で描かれているあの時代のことは僕の青春時代とまるっきり一緒です」
——堤監督は大阪万博に行かれて、浦沢さんは行けなかったそうですね。
「そうです。しかも僕は2回も行きました(笑)。だけど、この映画を作るに当たって、親に万博の時の写真を10枚くらい送ってもらったら、僕が写ってる写真が1枚も無いんですよ(笑)。どれぐらい並んだとか、暑さとか、匂いとか、記憶は全部残ってるんですけど証拠がないんで、もしかしたら、夢でも見ていたのかって思いますよね」
——本作の企画・脚本を担当されている長崎さんが、以前別の企画で堤監督と会ったことがあるとおっしゃってましたが、覚えてますか?
「覚えてますよ。その時に漫画のプロデューサーでこんなにクレバーな人がいるんだって思いましたよ。大体漫画家が汗水たらして描いてるものだと思っていたけど、今更ながら、映画やテレビと同じようにちゃんと仕掛け人がいるっていうことに気づかされました。『だから、こんなに深いんだ』っていうのがわかって驚きましたよね。そして、今回久々に会って話してみると、長崎さんも浦沢さんもすごい趣味人なわけですよ。特に浦沢さんのすごいところは、長崎さんのようなオタク以上のオタクときっちり話が合うということ。昔のアメリカのTVドラマとか、非常にマニアックでコアな映画の話になると、僕は話に入れませんでした。だけど、僕は浦沢さんとロックミュージシャンの話をすると盛り上がれたんです。こっちの話では、逆に長崎さんが入れないので、長崎さんはごはんを食べ始めるんです(笑)。だからみんなでミーティングしたときは面白かったですよ。『20世紀少年』の話は全然しなくて、そういうお互いの趣味の話ばかりしてました(笑)」
——監督のオファーが来た当初は即答は出来なかったそうですね?
「それはビビりましたよ。長すぎる、巨大すぎる、ファンが多すぎるっていうことで、2〜3カ月勉強させて欲しいということで、原作を読み込みました。そしたら、読めば読むほどはまっちゃって、最終的に『これは逃げるべきじゃない』という結論に至ったわけです」
——何が堤監督に「逃げるべきじゃない」と思わせたのでしょうか?
「僕は大体どんな企画でも『自分に出来るのかよ?』って思うんです。これは今までのどの映画でもそうでした。でもひとつポイントが見つかれば、グーっとのめり込めるんです。この『20世紀少年』では、読み込んでいるうちに3つのポイントが浮かんできました。まず一つめは、聖書のように長い話であるにもかかわらず、漫画を読んでわからないことは何ひとつない。つまり、それは過去のこと、60年代のことが描かれているから。次に主人公ケンヂが今では古文のようになっている古いロックのスピリットみたいなものを持っていて、それによって決起していくっていうところが、オールドロックファンの僕としてはすごく共感できたんです。要するにロックっていうのは商品でもなく、耳に聞こえるという現象でもなく、心の状態だというところ。そして3つめは近未来の世紀末的な雰囲気。『未来世紀ブラジル』とか色々ありますが、あの手の作品の感じってやろうと思っても自分で企画を通すのは中々できないですよ。だからこの『20世紀少年』の名を借りて、そういうチャレンジができることはとてもすごいことだなと思ったんです」
——映画版製作にあたって、浦沢さんから注文やアドバイスはあったのですか?
「何も無いです。一切ありませんでした。というか、ご自身で脚本を書いていて、自分の長編大河物語を自らサンプリングされているわけですから、僕はそれに忠実に撮ろうと思いましたね。その脚本がメッセージだと思って撮りました。もちろん現場で少しはアレンジするんですが、大意を変更することはありませんでした」