「本作の狙いとしては、戦争スペクタルというよりも、天下太平を願う人々の人間ドラマであると思います。黒澤作品のように、ある程度の演出は、歴史物でも必要。」レッドクリフ Part I 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の狙いとしては、戦争スペクタルというよりも、天下太平を願う人々の人間ドラマであると思います。黒澤作品のように、ある程度の演出は、歴史物でも必要。
第1部だけでも145分もあり、やはり二部構成が正解と思われます。第1部は水軍戦の前哨となった陸での戦いが中心になっています。
赤壁の戦いのハイライトである水軍戦は、第二部の4月までお預けとなりました。エンタティメント作品として、歴史的な三國志解釈から外れていたり、割愛されたエピソードも多々あるようですが、忠実にすればしたで、ながったるしくつまらないものになったでしょう。ジョン・ウー監督は、黒澤明監督へオマージュしていて、本作も『7人の侍』を参考にしているとか。黒澤作品でも言えることですが、ある程度の演出は、歴史物でも必要であると思います。
やはり戦闘シーンは、100億円の資金の力業で、CGも使ってはいますが、1000名の人海エキストラがぶつかり合うシーンは圧巻です。城郭なんか、セットでなく本当に本物の城を作り上げたそうですから、リアルそのものの。
なかでも孔明が仕掛けた八方遁甲戦術フォーメーションの描き方がとてもわかりやすくて、亀の甲羅状の陣形が曹操の大軍を飲み込む様が小気味よく描かれていました。「300 スリーハンドレッド」では無敵の集積陣形が、周瑜や孔明の知略で、あっという間に崩されるところが印象的でした。
戦闘シーンでは、角川春樹作品のように、大軍と大軍でごちゃごちゃになる映像でなく、ヒーローごとに見せ場が用意され、見応えたっぷりでした。
周瑜は、鮮やかな剣さばきをみせ、関羽の青龍円月刀がまさに敵兵をなぎ倒し、超雲は馬上から巧みに槍を操り、張飛は強力で、敵兵を豪快に吹っ飛ばしておりました。
皆さんがこんな三国志の戦闘シーンが見てみたいという潜在的な願望を叶えた映像ではなかったでしょうか。
但し本作の狙いとしては、戦争スペクタルというよりも、天下太平を願う人々の人間ドラマであると思います。
ラストの白鳩が舞うところや周瑜の妻小喬が生まれてくる子供に「平安」と名付けようとするシーンに、監督の思いが込められていると思います。
しかし戦闘を避けるなら、80万の大軍で押し寄せる曹操に、降伏した方が平安で暮らせます。事実孫権の先代から仕える老官吏たちはこぞって、降伏を説いていたのです。
皆さんは、ご自身がリーダーならどう考えるでしょうか。
戦いか、降伏か。迷う孫権に謁見した孔明のアジテーションが凄かったです。曹操の不徳を断罪し、天下太平の「大義」のために戦う必要を説いたのです。
このときの孔明を演じた金城武の表情が良かったです。
二心なく孫権を見つめ、理想と信念を語る青年軍師のまっすぐな思いが伝わってきました。彼の孔明役は当たり役だと思います。
諸葛亮孔明と周瑜の関係は、赤壁のあと騙しあいになっていきますが、ドラマとしてはテンコジのような友情タッグで良かったと思いますよ。
また孫権に決断を促すため、虎刈りに出かけた周瑜がわざと、主君を虎の前に一人放置させるくだりも、80万の大軍の恐怖心を超える決心がつくのに充分説明になったと思います。
翻って、現代もまた混迷の事態です。この作品で願っていることは、天下太平に導くリーダーの登場ではないでしょうか。民衆にとって仁と徳のあるリーダーとは。そして歴史の大義のために、いのちすら投げ捨てて、志を貫こうとするリーダーが各方面で求められていると思います。
この作品に啓発されて、龍馬のように『世界をもういっぺん洗濯しもうそう』という若者達が出てくればいいなぁと思います。
龍馬といえば、劇中の劉備は冴えませんでしたね。仁者であったけれど、風貌はまさに敗軍の将。ヒーロー化されている劉備だけにショックを感じる人は多いでしょう。
劉備というよりも、項羽と劉邦の負け込んだ劉邦という感じでした。
追伸
孫権のおてんばな妹尚香は、馬や人の点穴を突いて失神させて、周囲の度肝を抜かせます。シリアス一辺倒かと思いきや、笑えるところもあって、息抜きになりました。
戦いの発端なったと噂される、曹操は小橋に対する横恋慕も、もっと嫌らしいものかと思いきや、意外とサラリとしたもので、予想外でした。