「苦労はふいですと?はかないやんか!・・・無理無理。」クローバーフィールド HAKAISHA ジョルジュ・トーニオさんの映画レビュー(感想・評価)
苦労はふいですと?はかないやんか!・・・無理無理。
<ストーリー>
ハッドは友人のロブの兄、ジェイソンにロブの送別パーティで、友人たちのメッセージをハンディ・カメラで撮るように頼まれる。
様々な「友人たち」の素顔を興味本位で撮っていたところ、突然建物が大きな揺れに見舞われる。ニュースでも速報が流れるが、外の様子を確かめるため屋上へ。すると遠くの方で大爆発が起き、火の粉がその建物まで飛んでくる。慌てて外に出ると、信じられない"何か"がカメラに映っていた。
<個人的戯言>
全篇ハンディ・カメラによる撮影による、壮大なる実験は、気持ち悪くなることもなく、その場の臨場感は超リアルに伝わります。ただ全編ではなくてもこの手の手法は既によく見られるため、その現場に放り込まれるほどのものは感じません。むしろそれに終始することにより、ダイナミックさに欠ける部分がありますし、しかもあれほどかん口令をひいて、ひた隠しにしていた"何か"は始まってほどなくその姿を現わしてしまい、おまけにその造形は平凡でチープ。おざなりのストーリーも含め、視界が狭く、細かいところに目が行き過ぎ、全体としてもエンターテイメント性が落ちてしまった感じです。
「2008年4月7日14時34分、ジョルジュ・トーニオだ。約2時間半前"何か"が劇場に現れた。この日記を見つけたら、劇場にいたなら、あなたの方が僕より知っているはず」・・・
オープニングに、パニックとは関係のない、「本来の使い方」で撮られた映像が流れます。これは主人公が無茶な行動に出ることに関係したものなので、退屈ですが必要なものなのですが、ちょっと浅過ぎて、そこまで主人公がこだわる理由になる、納得できる説明にはなっていません。ご都合主義で許される、「いつまでカメラで撮ってんねん!」とは違う部分なので、細かいところにこだわる暇があったら(オープニング始まってすぐと、「撮影終了」となるラストは、細かいキーワードで繋がっています。でもかなりどうでもいい)、もうちょっと根幹となる部分を丁寧に描いた方がよかったと思います。
その後のパーティの様子は、登場人物の関係性が明らかになる覗き見感覚で、この映画の中の唯一のストーリーに繋がる部分であり、既にここから「実況中継」が始まっていて、"何か"が攻撃してきた時にカメラを持っている必然性にも繋がるので、これは必要な部分です。
そしていよいよ"何か"による攻撃で街がパニックに陥るのを、克明にその場にいる人間の視点で、緩急も付けながら臨場感溢れる形でリアルに描かれています。意外と気分が悪くなることもなく、この辺りは計算された画像だったのでしょう。しかしハンディによる撮影というのは、全篇ではないにしてもよく使われているため、「登場人物の臨場感」を追体験するに過ぎず、放り込まれるまでの感覚にはなりません。逆に狭い視界で描かれてしまうため、ダイナミックさが欠けてしまうことになってしまってます。この辺りは別の視点から個人の視点に移行するなど、大きな映像の展開があった方がよかったかもしれません。やはり90分全部が個人の視点というのはきついかも。
しかしも「視界の狭さ」を活かす唯一の方法が、姿なき"何か"だと思うのですが、これがパニック冒頭、あっさり姿見せちゃいます。しかもその造形が何とも平凡でチープ。かん口令までひいてまで見せなかった正体がこれって?それとも「平凡でチープ」だから見せられなかったのか?そう思いたくはないですが、これ観たさにお金払ったと思ってしまったら、かなり悲しいかも(もち撮影方法に期待してたのですが・・・)。
観てる間は釘付けにはなるので、それなりのクオリティはありますし、そのチャレンジ精神には敬意を表したいですが、もう少し工夫があれば、より満足出来る娯楽作品になったのではないかと、残念な気持ちです。