劇場公開日 2008年9月6日

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「あまりにもイタイ!ラストシーンに心響くものが。但し編集面では饒舌気味。」イントゥ・ザ・ワイルド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5あまりにもイタイ!ラストシーンに心響くものが。但し編集面では饒舌気味。

2008年8月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 これが実話であるということがまず衝撃を受けた点です。主演のエミール・ハーシュは餓死寸前のガリガリになり、野生の熊に遭遇しても、スルーされるほど真に迫った演技をしていて、なるほどアカデミー賞にノミネートされることはありました。

 ただ、全編148分の長篇の中でクリスのヒッチハイクのシーンが長すぎたと思います。まるでドキュメンタリーのようでした。ヒッチハイクのシーンは、ほとんど無言のため、見ている方も退屈になります。

 またクリスの放浪のモチベーションとなる親夫妻の不仲。籍を入れない愛人側の子で私生児として生まれてきた経緯から、いかにクリスが親の愛に飢え、押しつけてくる親のほうからの愛情表現に偽善を感じて家を飛び出したのか何度も語られます。
 惜しむらくは、父親のDVについてクリス兄妹の台詞で片付けられてしまった点です。クリスの父親がどんなひどい存在であったのか、映像での前振りがあったほうが、観客は無謀なクリスのアラスカ行きをもっと理解できたかも知りません。

 さてこの作品が映画通や評論家に高い評価を受けている点として、きわめて明快なメッセージ性があげられます。ただ娯楽映画しか普段見ていない一般の映画ファンには、チト敷居が高い作品でしょう。
 何しろクリスは文学や哲学に通じた秀才で、真の自由や幸福と出会うために旅を続けます。ちょっといい彼女から言い寄られても、クリスは旅を続けることを止めませんでした。クリスのプライトニックな部分が理解できないと、何でアラスカに目指しているのかさっぱり共感出来なくてしらけてしまうことでしょう。

 ただ最近は日本でもDVとか離婚とか家庭に問題を抱えながら成人せざるを得なかった人たちが増えてきています。そういうトラウマを抱えている人にとっては、ハートが締め付けられるくらい主人公に感情移入してしまう作品でしょう。そういう人は、ハンカチ持参で一人でじっくり劇場鑑賞をお勧めします。

 それにしても真の自由や幸福と出会うために旅を続けた結果、孤独を肌身でむ感じ、ゃっと幸福とは人がつながっていることなんだと悟る過程は、なんと遠回りでしょう。なんと反面教師的な作品でしょう。
 対人関係恐怖症でもウツの人でも、本当に人がいない環境に閉じ込められたら、人とのふれあいを渇望することでしょう。孤独を描くことで、痛烈に愛の実在と愛の根源である信仰の大切さを表現している作品です。
 しかもクリスは旅の途中でも、ある程度わかっていたのです。他人には殻から出ろと説教するくらいでしたから。
 ただとことん納得できなくて、踏ん切りをつけようとアラスカ行きにこだわったのではないでしょうか。
 クリスに足りなかった点は、育ててもらった感謝と親の立場から自分を見つめることでした。常に自分の五感で捉えることが絶対と考えていたようです。もう少し素直になれば、親の懐に飛び込むことが出来たでしょう。

 あまりにもイタイ!そのラストシーンと共に、小地蔵としては作品の世界観を認めたくないと思うのであります。
 文明の進歩を否定するのはかっこいいでしょう。
 でも文明の進歩は確実に餓死の危険性を亡くしてきました。そういう文明生活からの逃亡は、原始人と同じような餓死の危険性をはらんでおります。作品の登場するヒッピーたちが何の生活の心配もなく、気ままに各地を車で旅をし続けていられるだけのゆとりを文明の進歩は作ってきました。
 それは別の角度から見れば、目に見えない人々の営みの繋がりです。現代の中で、孤独を感じる人は多いでしょうけれど、現実に生活が成り立っている背景には、多くの人が自分のために影で汗を流しているから、ピッピーでも飢えることはありません。
 その様な飢えなくてすむシステムが整備されて、多くの人が助け合って生きているところに大きな愛を感じずにはいられません。きっと教会を嫌いと語ったクリスに信仰の大切さを語りかけた人たちは、このことをクリスに伝えたかったのでしょう。

 クリスもそうだし、クリスの両親も、失ってみなければ人はつながっているからこそ幸福なんだ、諸法無我なんだということに納得できなかったのでしょうか?

流山の小地蔵