「人は"希望"を失ってしまっては生きて行けない。」ミルク 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
人は"希望"を失ってしまっては生きて行けない。
“僕はハーヴェイ・ミルク、みんなを勧誘したい。民主主義にみんなを勧誘したい”
映画『ミルク』は、アメリカの歴史上マイノリティの人達が受け続けた差別と偏見に対して敢然と反対の立場に立って戦った、或る1人の男を描いた作品です。
彼の人生は、アカデミー最優秀記録映画賞に輝いた『ハーヴェイ・ミルク』でより詳しく語られています。
事前に『ハーヴェイ・ミルク』を観る機会に恵まれたので、作品中には沢山の人物達が登場するのですが、それらの登場人物達をすんなりと理解出来たのは今作品を観る上でとても参考になりました。
映画『ミルク』は、『ハーヴェイ・ミルク』の中でほんの少し登場する彼が生前に残したメッセージ(遺言テープ)を基に時代に沿って構成されています。
『ハーヴェイ・ミルク』では、彼本人の人物像としての魅力を、周囲の人間がその人となりをカメラに向かって話す事で、観客には笑顔溢れる映像が残された彼の姿からどんな人間だったのかを知らせる作り方でした。
一方映画『ミルク』を観ると、主演がショーン・ペンとゆう事も在るのでしょうが、ハーヴェイ・ミルクとゆう人物像をどこか闘士・策士と言った感覚で描いているのがとても目立ちます。
これは、『ハーヴェイ・ミルク』がマイノリティの人達の代表者として描かれていたのに対して、『ミルク』では映画の冒頭から終盤まで一貫して差別や偏見と闘った代表者としての描き方になっているのが影響しています。それには、多分にこの作品を監督したガス・ヴァン・サント自身が、自らゲイで有る事を公言している事実が大きく作用している気がしてなりません。
『ハーヴェイ・ミルク』を観た際に感じたのは、ハーヴェイ・ミルクとゆう人物の笑顔から醸し出されるユーモア感覚。人を惹き付けるカリスマ性が当時の時代のムーブメントと見事なマッチングを施していたのが分かります。
それだけに映画『ミルク』に於ける闘士・策士としての描かれ方には若干の違和感は少なからず在ります。
それでもこの作品にとっての評価がマイナスになる事は少ないでしょう。
「仕事や問題なんかじゃ無い。命を賭けた戦いなんだ…。」
作品中に語る彼の言葉には、マイノリティの人達が抱える真実の叫びに溢れている。
映画『ミルク』だけを観ると、ハーヴェイと市長の2人を暗殺する事になるダン・ホワイトとゆう人物の人間性が今一つ分かり難いかもしれません。その辺りの何故彼は孤立してしまったのか?と言った疑問点等は『ハーヴェイ・ミルク』を観るとより分かり易く描かれている様に思います。
逆に、当時のハーヴェイを始めとする同性愛者達を巡る周囲からの厳しい偏見の眼や圧力と言った物は、映画『ミルク』での方がより良く、詳しく理解する事が出来ると思います。
『ハーヴェイ・ミルク』でハーヴェイ・ミルク本人の人となりを知り。映画『ミルク』で時代に沿った当時のムーブメントと偏見の変わり様を如実に追体験出来る。
本編での中でハーヴェイは、選挙期間中に対立候補からある忠告を受ける。
「君の演説には希望が無い」
何気なく発した対立候補の一言が、その後の彼の人生を大きく左右する事になる。
以後彼の演説には、マイノリティの人達が日々の差別や偏見。そして圧力と云った物に対して、決して屈しない為の心の支えとして“希望”の2文字を旗印に大きな壁に向かって立ち向かって行く。
「人は希望を失ってしまっては生きては行けない」
マイノリティの人達に希望を!と訴え続けたハーヴェイ・ミルク。
“希望”とゆう2文字。
それは決してマイノリティの人達だけでは無く、人類全ての人達に平等に持ち得ている物だ!
信じて前に進んで行く事で必ず道は開かれるし、どんなに大きな壁が目の前に立ちはだかったとしてもやがては崩れ落ちる。
それを決定づけるのは今岐路に立たされている貴方の信念に委ねられる。
あの時ハーヴェイ・ミルクが針の穴程に小さな“希望の光”を手探りの中で掴み取り立ち向かった時の様に。
(2009年5月3日シネマライズ UP theater)