第9地区 : インタビュー
「第9地区」とは、南アフリカ共和国ヨハネスブルグにあるエイリアンの難民キャンプの呼称。ある日突然、無数のエイリアンたちは、征服者としてではなく難民としてやってきた。言葉も通じず、不潔なエイリアンたちを住民たちは差別し、超国家機関MNUは彼らを強制収容所に移住させる計画を立てるが……。本作は、そんなユニークな設定の物語を疑似ドキュメンタリー形式で描いて、全米で大ヒットを記録。さらにアカデミー賞では、監督も出演者も無名の新人ばかりなのに作品賞ノミネートという快挙を遂げた。この映画で、エイリアン強制移住計画の責任者にされた主人公ヴィカスを演じ、夏の大作「特攻野郎Aチーム」にも抜擢されたシャルト・コプリーが来日。舞台裏を語ってくれた。(取材・文:平沢薫)
シャルト・コプリー インタビュー
「監督が14歳のときからの付き合い。彼に最初の仕事をあげたのは僕だ(笑)」
主演のシャルト・コプリーは、本作の監督ニール・ブロンカンプと同じく映画の舞台となった南アフリカ共和国生まれ、監督と同じ高校出身の36歳。監督が14歳、彼が20歳で映像制作会社を経営していたときに、監督をCGデザイナーとして起用したのが初めての共同作業だった。
「実は賃金を払うつもりはなくて、タダでやらせたんだけど(笑)、『最初に彼に仕事をやったのは僕だ』と言うと聞こえがいいから、そう言うことにしてる(笑)」
長編初監督作でいきなり世界に名をとどろかせたブロムカンプ監督とは、どんな人物なのだろう?
「人間としてはとても率直で、友人として信頼できる。それにものすごく頭がいい。監督としては、SFに一種の魂のようなものを与えることができるのが彼の優れた点だと思う。彼は16歳の頃からアニメでSFを撮ってたんだけど、その頃から舞台は無機質な宇宙船だったりするのに、作品は感情に訴えかけてくるんだ。あれは驚きだったね。映画監督としては、次のジェームズ・キャメロンみたいなすごい才能の持ち主だと思う。ニールも僕もキャメロンが大好きなんだ。もうひとつ彼がすごいのは、人とのやりとりの中で、うまく自分がやりたいことをできるポジションに自分を持っていくこと。かなり若いときからそうだったね」
実はコプリーは、もともとは俳優ではない。彼は映像制作会社で監督を目差していた。
「僕は10代の頃からずっと仕事をしていて、5つの会社で働いたけど、この映画の2~3カ月前、急に思い立って会社を辞めたんだ。このままでは不幸せだし、正しいことをしていないと思って。僕は映画をやりたいんだという気持ちがあったから」
そんなとき、監督がこの映画への出演をオファーする。コプリーは、この映画の原点となった短編映画に製作で参加し端役も演じていたが、本格的な演技は初めてだった。
「だからこの映画の僕のセリフは全部アドリブなんだ。僕は俳優としての訓練を積んだわけじゃないから、演じるということは、その役になりきることなんだよ」
本作の製作を務めたピーター・ジャクソンは、とても協力的だったという。
「彼はキャラクター作りにも協力してくれたよ。主人公の話し方は南アフリカのアクセントなんだけど、ハリウッドのスタジオならアメリカのアクセントにしろと言うと思うんだ。でもピーターの判断で、そのままのアクセントにすることになった。彼は僕の演技も誉めてくれたよ」
そして新作は、リーアム・ニーソン、ブラッドリー・クーパー共演で80年代の人気TVドラマを映画化する夏の超大作「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」。彼は、主要登場人物4人のひとり、戦闘疲弊症による奇行がユニークなマードック大尉を演じる。
「子供の頃、このTV番組が大好きだったから、大喜びで引き受けたよ。ミスターTが演じたボスコも好きだったけど、マードックが一番好きでよくマネしてたんだ。この映画での体験は『第9地区』とはまったく別ものだった。長所と短所の両方があるよ。『第9地区』は時間がなくて厳しい撮影だったけど『Aチーム』はゆったり撮影できた。でも『Aチーム』には『第9地区』のような芸術的な要素はない。それに結論までの時間の長さが違う。『第9地区』はニールと『こうやろう』ですぐに出来たけど、『Aチーム』はお偉方が多数関係してるから、OKかどうかの結論がなかなか出ない。その代わり、いろんな俳優たちと共演できたのがとても楽しかった。まさに一長一短だね」