「重い。でも良い作品を見た、という充実感があった。」ワルキューレ blueheavenさんの映画レビュー(感想・評価)
重い。でも良い作品を見た、という充実感があった。
重い歴史的な事件に、真正面から取り組んだ映画。
「歴史的な事実をできるだけ正しく伝える」ことを決意したブライアン・シンガー監督は、映画の中に解釈を加える事を極力回避。『ここで観客を泣かせたい』というような、監督テクニックを控えている。
演技的な誇張や派手なカメラワークは影を潜め、淡々と時間に沿って事件が進む。「もっと、人物の感情的な面や、この行動を決意する背景を詳しく描いて欲しかった。物足りない気がする」と思う人も多くいるのでは。でも、そこに興味が出たら、本の2,3冊も読んで内容を深めたらいい。シュタウフェンベルクの、人間としてのすごさを肌に感じて、私も彼についてもっと詳しく知りたいと思った。
映画は、7月20日プロットに至る経緯を示したあとは、一気に事件の核心を描いていく。暗殺だけを目的とするのではなく、その後の政府をどう導くかが視野に入れられた決起だ。そしてこの行動の結果がやがてひずみ、足並みが乱れ、瓦解していく過程が、丁寧に描写されていく。このあたりに一番映画のパワーを感じた。「ほぼ事実なのだ」という信頼の中でサスペンスフルな映画に夢中になった。
歴史ドキュメンタリーに近いが、ドキュメンタリーではない。事件が急展開していく中に、主だったメンバーの決断、迷い、恐怖、家族への思い といった一つ一つが正確に映し出され、ストーリーは観客の心を掴んで離さない。「残された記録」ではなく、目の前に繰り広げられる人間性のドラマだ。
敬礼をしない事をとがめられた大佐は、靴のかかとを鳴らすと、手首のない腕を突き出し、空気を切るような、高く通る声で「ハイル・ヒトラー!」と叫ぶ。逆に、ヒトラーへの憎悪が伝わるこの場面は背中がぞくっとした。
最後に臨む場面で、大佐が上官に「目を上げてください。私達は忘れられはしません。」と言葉をかける。これは自分に言い聞かせる言葉でもあっただろうと思いつつ劇場を出た。