007 慰めの報酬 : 映画評論・批評
2009年1月13日更新
2009年1月24日より丸の内ルーブルほかにてロードショー
速くて危険なクレイグは健在。監督の勤勉さがやや裏目に
期待はあった。不安もあった。
期待はダニエル・クレイグだ。クレイグは、「007/カジノ・ロワイヤル」で私を驚嘆させてくれた。速くてタイトで危険で、ちょっと変質的な気配さえ覗かせてくれたからだ。
不安は監督のマーク・フォースターだった。「チョコレート」も「ネバーランド」も、良心的佳作だが快楽的な映画ではなかった。ボンド映画は、とくに粋でなくてもよいが楽しくあってほしい。しかもフォースターはアクション映画をこれまで撮っていない。
不安は半ば的中した。フォースターは「速くてタイトなアクション」を追求しすぎた。上映時間をシリーズ史上最短の106分に絞ったのはよいが、ボンドの「冷徹非情な復讐鬼」という側面に比重をかけすぎたのだ。私は映画の途中で見方を変えた。「慰めの報酬」はボンド映画よりもマカロニ・ウェスタンに近い。
そう考えると、ハイチの混沌やボリビアの砂漠も舞台として生きてくる。クレイグの素早さや筋力も十分に活用されている。美女と悪党が弱いのはかえすがえすも残念だが、モンタージュを多用したフォースターのひたむきな勤勉さは敢闘賞ものに思えてくる。
ただ、遊びの要素はやはり不可欠だ。ボンドはジェイソン・ボーンではないのだし、クレイグを「敏捷な労働者」の枠に収めるのはあまりにも惜しい。次回は、快楽と勤勉と迅速が矛盾しないことを証明してほしい。
(芝山幹郎)