「脚本を誰かがリライトしていたら、もっと面白かったかも。」ジャンパー kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本を誰かがリライトしていたら、もっと面白かったかも。
2008年3月下旬に“新宿プラザ劇場(現在のTOHOシネマズ 新宿)”にて鑑賞。
『ジャンパー』、それは突然、瞬時にテレポートする能力を手に入れた少年を描いたSFアドヴェンチャーであり、作家のスティーヴン・グールドが執筆した同名の長編小説を実写化したもの(原作は未読)で、20世紀フォックス配給、『ボーン・アイデンティティー』のダグ・リーマンが監督し、『Mr.& Mrs.スミス』で組んだサイモン・キンバーグの脚本、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』以来のメジャー作品への主演となったヘイデン・クリステンセンが主人公を演じた大作となっています。
幼い頃に母親(ダイアン・レイン)が姿を消し、父親(マイケル・ルーカー)と暮らしてきた青年デイヴィッド(ヘイデン・クリステンセン)は高校生の時に凍った水のなかに落ちた際に瞬時に何処へでも行けるテレポート能力“ジャンプ”に目覚め、父親との暮らしにウンザリしていた彼はニューヨークへ行き、そこを生活拠点としながら、“ジャンパー”としての能力をフル活用した日々を送りながら成長するが、ある日、その能力を問題視する勢力“パラディン”のメンバーのローランド(サミュエル・L・ジャクソン)に命を狙われる(あらすじ)。
本作が公開された頃は個人的に大作がハズレ続きの状態だったので、本作への期待は非常に大きく、『ボーン』シリーズを生み出したダグ・リーマン監督がヘイデン・クリステンセンとタッグを組んだSF大作というだけで食い付き、予告を見て、「もしかしたら、“エラゴン-意志を継ぐ者-”以来のアタリの大作になるかも」と思い、ハードルを高くして観に行きました。全体的に期待度を下回る内容で、ガッカリに近いぐらいの印象を持ったものの、面白い部分が多かったので、まずまずといったところで楽しめました。満足は出来ず、今もたまにDVDで観るのですが、その印象は殆ど変わっていません。
設定と映像は、とても面白く、自由自在に瞬間移動して、行きたい場所へ行けるという能力のキャラというのは、人なら誰もが一度は「こんな能力があったらな」と思うかもしれず、自分も間違いなく、そのように思ったので、本作のキャラたちには憧れる部分があり、瞬間移動の映像がカッコ良くて、爽快感もあるだけに、そのシーンになる度にテンションが上がり、主人公が能力を使って、何の躊躇いもなく、銀行強盗までやってしまうブッ飛びな展開に驚き、映像の印象がアメコミ原作モノに近い感じ(何も知らずに見たら、“X-MEN”や“ファンタスティック・フォー”等のマーヴェル作品のスピンオフと思うかも)なので、その能力を持ったら、力が持つ重さの意味を考え込んで葛藤するのが当たり前なのに、そういうのが殆ど無いという点で、「想像してたのとは違う」と多少は思いますが、主人公が悩む作品が増えてきて、飽き飽きしていた時代だったので、悩まないというのを気に入りました。主人公に嫌がらせをしていた同級生に仕返しをしたり、ローマのコロッセオの立ち入り禁止エリアに簡単に入れるという、能力を活かしたシーンが多数用意されていたのも良かったです。特に東京都内を車で走り回り、混雑しているところを瞬間的に避けて、空いている道をスイスイと進めるシーンが、とても楽しく、その順序はメチャクチャでハリウッド的なトンデモ日本になっていますが、東京でロケをしたというのが嘘ではないこと(ただ、銀座四丁目の交差点と渋谷のスクランブル交差点が繋がってる編集が気になってしょうがないです)が伝わってくるので、良い点は多いです。
イマイチだったのは上映時間が大作なのに88分と短すぎる事で、テンポ良く展開するのは良いですが、その分、キャラクターやストーリーの掘り下げが足りず、主演のクリステンセンとジャクソン以外にジェイミー・ベル、ダイアン・レイン、マイケル・ルーカーと良い俳優が出ているのに、彼らに魅力のある役柄を与えておらず、何の伏線も張らずに突然、登場させたり、ロクに見せ場が無い状態でフェードアウトさせたりと勿体無い使い方が多すぎて、「この人は、これだけの出番で納得しているのだろうか?」と思うことが多く、出番は多くても、乗り物ごとテレポートさせるのを除けば、殆ど印象に残らないベルに関しては、描かれ方次第では主人公の良き同志や友人になれる可能性がありそうなのに、仲良くやろうとせず、対立して、仲間割れして、それで出番が終わってしまうので、シーンによっては主人公よりも魅力的に見える部分があるのに、このキャラを活かせていないのは残念で、ヘイデン・クリステンセンとサミュエル・L・ジャクソンの『スター・ウォーズ』での共演者の再々共演の為の引き立て役にしかなってないような気がします。話に関しても、描かれるものが少なく、これはサイモン・キンバーグの脚本の問題でしょうが、彼は『Mr.& Mrs.スミス』や『X-MEN-ファイナル・ディシジョン-』でもそうでしたが、派手なアクションを盛り込む事に長けていますが、話とキャラクターは薄く、『ウルトラ・ヴァイオレット』や『トータル・リコール(リメイク版)』のカート・ウィマー監督と似たような事しか出来ず、人当たりが良いので、今も第一線で活躍でき、組む監督やリライトした脚本家の腕が良いために、その薄さはカバーされているだけで、彼の単独脚本は今も薄っぺらさ(“リンカーン-秘密の書-”やリブート版“ファンタスティック・フォー”など)が変わっていないので、人当たりの良いことはラッキーなのではないでしょうか。もし、本作が腕の良い脚本家にリライトされていたら、もう少し話やキャラに魅力が出ていたかもしれないので、リライトを製作陣が考えなかったことは本作一番の不幸と言えるでしょう。
製作が明らかになった時点で“三部作”として映画化する事が決まっていたので、興行的、内容的な失敗で企画が白紙となり、折角の面白い要素をクリステンセンとジャクソンの出演で観られないのが非常に残念で、ラストにゲストで登場したクリステン・スチュワートが次回作で活躍しそうな雰囲気を僅かに残していたので、余計に白紙になったのが痛く、アイディアが面白いので、近い将来に出演者とスタッフを総入れ替えしたリブート作が作られる事を望みます。一つ本作で非常に良い点を挙げるとするならば、それはジャクソンがクリステンセンを痛め付けるシーンがある事で、『スター・ウォーズ/シスの復讐』でジャクソンが扮したメイス・ウィンドゥの最期を踏まえて観ると、本作においては、メイスにトドメを刺す一撃を与えたアナキン(クリステンセン)への復讐を果たしていると言えて、全く別の作品で、そのような事が観られた事を嬉しく思っています。