「葬式の意味」ダージリン急行 yutakさんの映画レビュー(感想・評価)
葬式の意味
【65点】
旅行映画なのに印象に残る場所があんまりない、というのはちょっと致命的だと思います。何回か移動もあり、その移動先で重要なイベントも起こるのですが、たいていが室内なのが残念です。市場や氾濫した川は、記憶に残らないインドの中のどこかという感じでした。旅先で出会う人間がほとんどいないので、主人公がどこか違う場所へ移動したという実感が希薄です。
と、駄目なところばかりあげましたが勿論いいところもあります。まず何と言っても色鮮やかな映像が美しかったですし、兄弟もそれぞれに魅力があったと思います。また、この監督らしくサングラスやバッグ、蛇、スプレーなどの小物が非常に存在感を持っていました。
物語自体は、遅刻してしまった父の葬式のやり直しがテーマだと思います。そのために彼らは欠席した母親に会いに行く必要があったのです。だから、父の葬式に遅れる原因となったエイドリアン・ブロディ演じる次男は、やはりまた乗り遅れそうになりましたし、オーウェン・ウィルソン演じる長男は、今度こそスケジュールを守ろうと必死なのです。時間通りに運行する列車が移動手段なのもそのためでしょう。彼らが途中でインド人の葬式に参加することになったのも、父の葬式のやり直しというテーマ上必然なのです。
また、三兄弟にはキャラ付けにおいてもそれぞれの役割があったと思います。まず三男ですが、彼の行動は兄弟三人の平均的な気分を反映しています。小説を書いて、葬式のことや帰国後の未来を語ったことは象徴的でした。三兄弟の気持ちがバラバラなときには、自分ひとりだけ航空券を取って帰ろうとする。次に次男は、父の葬式に遺品の車で駆けつけようとして遅刻するなど、非常に父親への執着が強い人物として描かれていました。私が思うに、彼は父親の代理ではないでしょうか。そして長男ですが、母親と再会後に分かることは、彼が非常に母親似だったということです。
つまり、三男が子供、次男が父、長男が母として、三兄弟のやり取りにはかつての家族を焼き直すような隠された意味があるように思えます。だから、三人の和解には兄弟の仲直り以上の意味があったのではないでしょうか。
ところで、再会時、言葉を使わずに伝え合うという母親の言葉のあとで列車内のような映像が流れましたが、どのような意味があったのでしょうか。あれが回想でないことは、次男が砂漠に逃がしたのだろうと推測した毒蛇が、車掌の水槽に入っていたことから明らかです。また、列車に乗り遅れたシーンだけに登場するビル・マーレイを回想したというのもおかしな話です。
だから、あれを強引に解釈するなら、三兄弟と母という家族以外の人間の、(列車のように動き続ける)現在の姿ということになると思います。現在というところがミソで、過去を振り切ったということを表しているのかも知れません。そうすると過去の未練としての母親が消えてしまった理由が分かります。
絵的にもテーマ的にも工夫があるだけに、何か惜しいところのある作品でした。