ダージリン急行 : インタビュー
「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」「ライフ・アクアティック」で世界を熱狂の渦に巻き込んだ、鬼才ウェス・アンダーソン監督。今回はそんな彼の新作「ダージリン急行」に注目。監督インタビューと、ファッション、音楽などウェス・アンダーソン作品に欠かせない魅力を解剖する。(文:編集部)
ウェス・アンダーソン監督インタビュー
「物事に対する僕のおかしな見方が出るんだ」
――3人兄弟のキャスティングはどうやって決めましたか? 彼らは家族として似ていると思いましたか?
「いや、最初はためらったよ。兄弟として通用するかどうかわからなかったからね。でも、素晴らしい役者であれば、家族としての演技が出来るし、すぐに兄弟のように振る舞い始めるものだから。最後には、ジェイソン(・シュワルツマン)とエイドリアン(・ブロディ)が兄弟といっても通用するような気になったよ。オーウェン(・ウィルソン)はまったく見かけは違うけれど、彼はストーリーのほとんどの間、顔が包帯や傷で覆われているからね」
――最初に起用を決めたのは?
「ジェイソンだよ。というのは、僕がジェイソンと、やはり友達であるロマン(・コッポラ)に脚本を一緒に書こうと頼み、この映画がスタートしたからね。だから、ジェイソンの出演は決まっていたし、オーウェンは、僕にとってはなくてはならない兄弟のような人だから、かなり早い段階で考え始めることが多い。それから、エイドリアンとは長いこと一緒に仕事をしたいと思っていたんだ。オーウェンと一緒にスティーブン・ソダーバーグの『わが街セントルイス』をずっと前に観たんだけど、当時19歳くらいのエイドリアンが出演していて、彼から強い印象を受けたんだ。その後、何年も彼のことを話していたよ」
――あなたの映画ではエキセントリックで機能不全の家族が描かれることが多いですが、個人的な経験に基づいていますか?
「僕は3人兄弟だし、家族との絆を失った人の気持ちもよくわかる。それは自分が経験したことだから。家族というものは結局、誰もがそれぞれの道を行くことになるからね。この映画の兄弟について僕が面白いと思ったのは、彼らが全員、特に喪失感を味わった瞬間を描いているところなんだ。彼らの父親が死に、母親は行方不明、兄弟はそれぞれ自分の家庭を築くことが出来ていないということだね」
――インドでの映画製作はいかがでしたか?
「脚本を書いているときに、皆でインドへ行き、旅の真似をして、兄弟のふりをしたんだ。その経験を映画のエネルギーにしたいと思ってね。その旅で経験したことの多くを映画で使ったし、もちろん、人から聞いた話も使ったけどね。ひとつの例として、プロデューサーから、アフリカで靴磨きを頼んだときに片方の靴を持ち逃げされた話を聞いたので、その話を盛り込んだんだ。インドに行く前に持っていたインドに対する知識は、すべて何本かの映画を通して得たもので、それは間違ったものではなかったけど、実際にその場に行き、音を聞いたり、インド特有の匂いをかいだりすることとは大きな違いだよ」
――色彩がとても印象的でした。
「インドは僕が今まで訪れた中で、一番活気のある場所だった。あらゆるところに色があり、後は、カメラをどの方向に向けるかを選べばいいだけだった」
――いまインドへ行けば、あの“ダージリン急行”に乗れる?
「いや、あの列車はもう解体されてると思うよ。一部分はニューヨークに持って帰ったけどね。僕らはインド政府から列車を借りて、それを映画用に作り変えたんだ。列車の外見は、インドにある普通の列車の見かけだけど、内部は地元の職人たちを使って、標識やらデザイン、象の絵をあちこちに描かせたんだ」
――あなたの映画は、どれも違う場所で違う登場人物を使っていますが、それでもなぜかウェス・アンダーソン映画ということがはっきりと出ています。その点を意識していますか?
「いや、全然(笑)。僕は、映画を新しいもの、今までと違うものに見せること、そして、どうやってうまくストーリーを伝えたらいいのかに全エネルギーを注いでる。それでも、舞台をニューヨークやイタリア、船上やインドの列車にしても、人からは“この映画はあなたのほかの作品とよく似ていますね”と言われてしまうんだ。つまり、物事に対する僕のおかしな見方が出るからだと思うよ」