誰も守ってくれない : 映画評論・批評
2009年1月13日更新
2009年1月24日より有楽座ほかにてロードショー
ズシリと重くて見応えがある、中年刑事と少女の逃避行
ほとんどの刑事ものは被害者を描いているが、この作品は加害者家族の保護という視点が斬新で、最初から引き込まれた。君塚良一監督はエンタテインメント系の人だと思っていたので、いい意味で裏切られた。誰にとっても生きることは容易でなく、登場人物はそれぞれ深刻な悩みを抱えている。刑事の勝浦(佐藤浩市)は、犯人の妹で15歳の少女・沙織(志田未来)を保護する任務につく。かつて幼児を殺害されたことがトラウマになっている中年刑事と、殺人犯の妹になってとまどう少女のぎこちない逃避行がスリリングに展開していく。沙織の両親が警察の指導で離婚し名字を変えるエピソードなど、そこまでしなければいけないのかと驚いた。
手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチの演出が、リアルな臨場感を生み出している。2人を追いつめるのはマスコミの過剰なバッシングと、匿名を武器に誹謗中傷するネット社会の悪意。人間は戦う相手の実体がよく見えないときに恐怖を感じるが、ここには誰がいつ勝浦や沙織になるかもしれないという恐ろしさがある。報道や表現の自由とプライバシー保護の問題は、どちらにも言い分があるので境界線を引きにくい。この映画も結論を出していないが、他者の痛みを少しでも理解しようと努力することで、かすかな希望を抱かせてくれるところがいい。考えさせられることが多く、ズシリと重くて見応えがある。
(垣井道弘)