「リアルの世界でも、いつまでもいつまでも幸せに」魔法にかけられて 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルの世界でも、いつまでもいつまでも幸せに
本作を初めて見た時、ディズニーは本当に面白い作品を作るなぁ、と。
だって本作、ディズニーがこれまで散々やってきた事をパロディにしつつ、ちゃんと王道になっているという離れ業!
おとぎの国アンダレーシアのお姫様、ジゼル。
森の動物たちとお友達で、歌を歌い、真実の愛を信じる、頭の中は毎日ハッピーお花畑。
ある時出会ったエドワード王子と恋に落ち、その日の内に結婚の約束。
もうここだけで面白い。ディズニーがクラシック・アニメーションで散々描いてきたプリンセスや王子様をパロディ的に。
この頃ディズニーはピクサーと同じくフルCGに移行しつつあったが、2D手書きアニメーションで。そのクオリティーは非常に高く、この冒頭だけでも今の『ウィッシュ』よりTHEディズニー。
アンダレーシアの女王でエドワードの継母で魔女のナリッサが、エドワードとジゼルが結婚したら女王の座を奪われると危惧し、老魔女に化けてジゼルを追放。
“幸せなど永遠に存在しない世界”へ。そこは…
現実のNY!
おとぎ(ファンタジー)の世界をアニメーション、現実(リアル)を実写で。
現実世界が“幸せなど永遠に存在しない世界”なんて皮肉でしかないが、これがまたユニーク。
このアイデア。さすがディズニーと思ったもんだ。
おとぎ(ファンタジー)の世界のお姫様が現実(リアル)の世界にやって来たら…?
フリフリドレス姿で大都会を歩き回り、あっちでこっちでとんちんかん。
お城はどこ? 私、エドワード王子と結婚するの。
ファンタジーだから成り立つのであって、リアルにいたらやっぱりヘン…。
まあディズニー・プリンセスのみならず、アニメのキャラなら皆そうだけど。例えば『ドラゴンボール』とか。オラ、強ぇ奴と闘けぇてぇぞ!…なんて言われたら、コイツ、ヤベー奴。
きっとここは恐ろしい魔の国。
一人心細くさ迷うジゼル姫。
そんな彼女に手を差し出した王子様。…じゃなくて、たまたま助けた弁護士。ロバート。
言うまでもなく恋のお相手。ファンタジーのプリンセスとそれと真逆も真逆の弁護士というのがこれまたユニーク。
離婚専門弁護士で、毎日毎日仕事に追われ、今も離婚協議の案件を扱っている。同職の恋人はいるが、バツイチで、シニカルで現実主義。真実の愛など信じていない。
彼の幼い娘モーガンはファンタジーやお姫様が好き。やっぱり女の子。
良かれと思って助けたが、言動も何もかも全く噛み合わないジゼルにほとほとうんざり。
突然歌い出すジゼルに、マジで…?
その日会った男性と結婚するって、マジで…?
こっちは5年も付き合ってるのに、まだプロポーズもしていない。勿論、彼女の事は愛してるけど…。
ジゼルもジゼルだが、煮え切らないロバートもロバート。
いや寧ろ、愛について悩みなどないジゼルの方が一理あり。
愛してるのに、何を迷っているの…?
当初はうんざりしていたジゼルのファンタジー思考だが、ジゼルの影響で離婚協議中だった顧客が復縁し、キャリアウーマンと思っていた恋人ナンシーが実はおとぎ話に憧れロマンチック思考なのを知り、次第にロバートの心をも解きほぐしていく。
一方のジゼルの方も。
ジゼルを助けにエドワードもやって来る。すったもんだあって、やっとこさ再会。また一緒に歌を歌って、アンダレーシアに戻って結婚しよう。
…その前にデートしない? お互いの事を知り合うの。
デートしてみて気付く。ちょっと噛み合わない。
ジゼルもこの現実世界やロバートから影響受け始めた。
エドワードは運命の人なの…? 真実の愛って…?
表向きはエドワードの従者だがナリッサの家来のナサニエルがジゼルの命を狙うも、ことごとく失敗。
業を煮やし、ナリッサも現実へ。
ファンタジーのプリンセス、リアルの弁護士、ファンタジーの王子様、ファンタジーのヴィラン、喋れなくなったリス…現実世界でファンタジーが展開!
文字通りアニメの世界からやって来たプリンセス。下手すりゃオーバーリアクションを絶妙に。歌って踊って、ユーモアも魅力もたっぷりと。
エイミー・アダムスがハマり役。彼女の快進撃はここから始まったようなもの。
始めはファンタジー全開だが、次第に内面やシリアスを滲み出す。最近の『バービー』に似ている。
実は非常に難しい役柄。それが出来たのもエイミー・アダムスという演技巧者だからこそ。
パトリック・デンプシーの同性から見ても伝わる色気。
この作品で実は一番ファンタジーは、ジェームズ・マースデン。イケメン王子様な筈が、おバカ…いやいや、笑わせ役。歴代のディズニー王子をモデルにしているらしいが、その一つにガストン。あ~、何だか納得。
ここでも裏切り者のティモシー・スポールだが、最後の最後は真に裏切る。彼の役回りもいい。
イディナ・メンゼルはこの後アニメの世界で夢見たディズニー・プリンセスに。
そして言うまでもない、魔女王スーザン・サランドンの存在感。ラスト変身したドラゴンより人間の姿のままの方が圧倒的。
それから忘れちゃいけないリスのピップ。キャラもそれぞれ個性が立っている。
ディズニー作品らしく、ミュージカルや楽曲もふんだんに。
その一曲。ジゼルとロバートがワルツを踊るロマンチックなシーンの曲は、さすがアラン・メンケン!
パロディだけじゃなく、オマージュや小ネタもいっぱい。
毒リンゴを食べさせられ、眠りにつくジゼル。助けられるのは運命の相手の真実の愛のキスだけ。言うまでもなく『白雪姫』。しかしその相手は…。
ラスト、ドラゴンに変身したナリッサ。『眠れる森の美女』のマレフィセントなのは言うまでもない。
剣を手に囚われたロバートを助ける為ドラゴンと闘うは、ジゼル。
ちゃっかり現代ヒロイン像も先取り。
パロディ、パロディと言ったが、ただ笑いのネタにしておちょくっているのではなく、その中で、リスペクトと王道をしっかりと描き込めている。
と言うより、昨今の作品よりずっとずっとずっと、これぞディズニー!
本当にこの頃のような作品がまた見たい。
勿論最後はハッピーエンド。
ファンタジーの世界だけじゃない。
リアルの世界でも、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。