オアシス(2002)のレビュー・感想・評価
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圧巻
これほど観ている側の居心地を悪くする作品は少ない。なぜ居心地が悪いのか?
このラブストーリーに彼ら二人の思い描くエンディングはやってこないと心のどこかで思っているから。
スクリーンのなかなら、奇跡がおこり姫も将軍も慎ましいながらも幸せに暮らす未来もあるかもしれない。
現実にはどうか。
プロフィールだけでいけば、前科3犯(冤罪含むけど)性的加害の傾向、社会的ルールを理解する力の低さ、経済的活動能力の低さ。問題解決の方法をことごとく誤学習。
片や、生活のほとんどにヘルプを必要とする脳性麻痺。
わかっている。この二人がやっと手に入れた肩書きなしの愛情は本物かもしれない。どうにかならないものかと苦しむ私と、なにも出来ないと諦める私と両方がいる。
確かなことは、二人がこの愛によって幸せになるかもしれないし不幸になるかもしれない。どちらにしてもその機会すら奪う権利は私にはない。
「演じる」のではなく、「生きている」
日本では2004年に初公開されたイ・チャンドン監督の「オアシス」(2002)は、恋愛映画の概念を覆すような、詩的でありながら破壊力を持った作品です。ソル・ギョングが演じる社会に適応できない青年と、ムン・ソリが演じる脳性麻痺の女性の極限の純愛を描き、第59回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)、ソリがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞しました。
主演ふたりの演技には驚愕します。ギョングが演じる刑務所から出所したばかりの青年ジョンドゥは、落ち着きがなく、周囲をイラつかせ、29歳ながら子供のように無邪気で、家族からも煙たがられてしまう。ソリが演じる脳性麻痺のコンジュは、白いハトや蝶々が飛んでいるように見える部屋で、壁にかけられた異国の絵を眺め、ラジオを聴いてひとり夢想する日々。
そんな社会から厄介者扱いされていた二人が出会い、彼らなりの愛を育んでいく姿に心打たれます。ギョングもソリもこの難役を「演じる」のではなく、「生きている」ようにしか見えません。チャンドン監督の名作「ペパーミント・キャンディー」(1999)でも共演していますが、同じ役者だとは気づかないくらいです。
そして、脚本も手掛けているチャンドン監督の演出には唸らされます。障がい者を扱ったデリケートな物語ですが、二人の純愛を極限まで描き切ることで、映画的なファンタジー、もしくはコメディの領域にまで高めてしまうのです。車椅子の上で自由に動けずにいたコンジュを映していたカメラがパンしてジョンドゥを映していると、コンジュが健常者の姿になってフレームインし、普通のカップルのようにじゃれ合うシーンなどは秀逸。現実と幻想の境界線を軽やかに越え、交じり合わせてしまう映画表現には胸が熱くなり、改めて映画の力を感じることができます。
不器用な二人の不器用な愛
前年の映画賞で高い評価を得た『ジョゼと虎と魚たち』をはじめとして、障がい者を扱った映画は少なくないが、人間への深い洞察力と映画が与える衝撃の大きさにおいて本作は一線を画している。鏡に反射した光が蝶や鳩に変化するシーンや、重度の障がいがある主人公が、一瞬、健常者のように立ち上がってはしゃいでみせるショットなどで、彼女の感情や心の動きを表現する演出が見事だ。
脳性麻痺の女性を演じるムン・ソリの壮絶な演技が観る者を圧倒する。映画でここまでやっていいのだろうかという不安すら感じさせられるが、そんな映画のタブーさえもが差別なのだという、作者たちの強い意志が本作を支えている。『ジョゼ虎』では、男は結局、障がい者の彼女のもとを去っていったが、ここでは、警察に囚われた男は、脱走し彼女のオアシスに不安の影を落とす街路樹の枝を切る。ラジオのボリュームを上げてそれに応える彼女。不器用なふたりの精一杯の心の吐露が切なくいとおしく、見る者の胸を締め付ける。涙が溢れて止まらない。
空想の世界で遊ぶしかなかった彼女が、明るい日差しの差す部屋で掃除をしているさりげないラストが、人間の生きる希望を象徴して美しい。名作である。
シームレスにつながるリアリティとファンタジー
多くの人は体験していないものの、どちらかと言えば直視を避けていたのかも…と思わされる設定に、最初は少しどう観ていけばいいのか迷った。
特に、主人公たち2人の最初の出会いや、花束を持った訪問の場面などは、観客としての自分たちはどこに連れて行かれるのか、正直不安だった。
けれど、観終わってみれば、見事にイ・チャンドンに引っ張り回され、深い余韻に浸っている自分がいる。
あんな出会い方がきっかけで、思いを通わせられるようになるのかなぁとも思わないでもないが、それも含めて、映画的なリアリティとファンタジーが、シームレスにつながっているところがいい。
ソル・ギョングもムン・ソルも、「ペパーミント・キャンディー」のあの2人なの??と思うほど、全く違うキャラクターを演じ切っていて、そこにも驚く。特にムン・ソルは、場面によっても全く違う人物になりきっていて、とにかくびっくりした。
ただ一つ「ペパーミント・キャンディー」や「シークレット・サンシャイン」でも感じたのだが、歌がとても効果的に使われているものの、それがどういう歌で、いつ頃、どんな流行り方をしたのか知らないので、そこを充分受け取れないのがちょっとさみしい。
ツートップ
映画館で観るの2回目だけど、結末を知っているので落ち着いて観れて良かった。
障碍者役の女優さんが、頭の中で健常者になった想定のシーンが、今回は特にじっくり細部まで観れて良かった。
このオアシスと、殺人の追憶は、韓国映画の歴代ツートップだと思う。
202312028 目黒シネマ
周囲が分かってあげきれていない関係なのか
評論子はもちろん精神疾患に知識を持っている訳ではないのですけれども。
しかし、主人公のジョンドウはADHD(多動性障害)の気配があったのではないかと思いました。
服役の理由として、彼が夜の暗闇の中で、清掃員をクルマで轢殺してしまったことの本当の理由も、そんなところにあったのではないかと思います。評価子は。
つまり、周囲の無理解が彼を刑務所に追いやったのであって、服役は、彼の性格改善には、何の役にも立っていなかったのではないかと、評論子は思いました。
そう考えると、精神に障害(ジョンドウほの場合は「不安定さ」?)を抱えた二人の関係が、周囲の無理解…否、分かろうとしてあげてはいるのかも知れないけれども、分かってあげきれていないというべきなのか…。
いずれにしても周囲の人々の理解を得るのが難しかったのでしょうけれども、ジョンドウとコンジュとは相思相愛だったことは間違いのないことでしょう。
そういう周囲には伝わり難い二人の気持ちが、とてもとても…とても胸に痛い一本でした。評論子には。
観終わって、本当に切ない一本として、秀作であったと思います。
世界は砂漠
役者さんの力が凄すぎる……
二人のことがいつのまにか好きになっていますね。「主人公に魅力はない」どころかその反対です。
この二人だけにしかわからないことがあり、それはもう、他の人間にわかってもらう必要はないし、わかってもらいたいとも思わない、そういう潔さを感じました。
クッッソなのは世界のほうだからね。
ただ一点、彼が逮捕されるのは彼自身が彼女の部屋の鍵を勝手に開けて押し入って羽交締めにして服を……という、あの罪の報いが遅れてきただけ。
しかし、その時には皮肉にも二人の関係はその時とまったく違っていて……というままならなさ。
部屋を掃除する彼女の一人の姿が心に残ります。素晴らしいラスト。
地獄のようなラブストーリー
これはいったいなんなんだ…
『地獄のようなラブストーリー』としかいいようがない、観たこともない映画だった…
誰にも感情移入できないのに、愛とはなにか、生きる意味とはなにか、と考えざるを得なくなる。
特に脳性麻痺のヒロイン コンジュを演じるムン・ソリの芝居には震えながら落涙するほかない…
麻痺した肉体という牢獄に囚われた女性と、彼女が今感じているこう動きたいという在り方を、瞬時に演じ分けられる天才によって、映画的な奇跡の瞬間が何度ももたらされた。
間違いなく奇跡の映画だし、間違いなく後世に残すべきマスターピース。
観てなくてすいませんでした…
ソル・ギョング ムン・ソリ 良き
これは、秀作でした
発達障害かな?ソル・ギョング演じる男と小児麻痺により身体の自由が効かない女ムン・ソリがすごかった
哀しいけど、幸せな気持ちにもなる場面もあった
ハッピーエンドととらえた
一生、他者と深く気持ちを通わすことのない人も少なくないのに、この二人は互いに交信できる相手ができた。
多くの人の考えるしあわせな末路にならないかもしれないが、思い出せる人、思い出せる楽しい時間、待ち遠しく思う人の存在を持てて、生きた甲斐があったというものでは。誰でも経験できることではないから。
トーンや状況や他の登場人物の心根が一様に薄暗いから、かえって二人の無邪気さが救いのように光を放って感じられた。こんな映画があったんですね。
常識人の偏見と愛
予備知識ゼロで観ていたこともあり、オープンニングからずっと呆気にとられました。「オアシス」という何となく楽園のような清々しいイメージとは真逆のシーンが続き、つらいです。主人公ホン・ジョンドゥ(ソル・ギョング)は、観ているだけで不快に感じさせるようなことを次々やらかします。空気が読めない非常識な人間、なるべく関わりたくない面倒な男です。もう一人の主人公ハン・コンジュ(ムン・ソリ)は、別の意味で直視することが苦痛でした。その二人が出会ったとき、こともあろうに、男は信じ難い行為に及びます。正直、半分くらいまでは観ていても気分が悪いだけでした(苦笑)。ところが、後半かもっと終盤でしょうか、少しずつ印象が変わりました。美しくみえている中にある汚らわしさと、汚いもののように目を背けているところにある美しさを見せつけられて、心がかき乱されました。女が訳もなく怖がっていた樹の影を必死で切り落とす男の行為は、まさに非常識でありながら、誰も持ち得ないほど深い愛に溢れた印象的なシーンでした(涙)。そういえば、砂漠のような荒廃したところにこそオアシスはある、その意味に気付いたとき、心の奥の方からとめどなく涙が溢れてきました。自分が意識的、無意識的に排除している偏見に気付かされ、感銘を受けました。
【様々な理由により、世間から疎外された男女の恋を描いた作品。韓国映画の底力を感じると共に、若きソル・ギョングの確かな演技に魅入られた作品。真の人間の善性と悪性を見事に抉りだした作品でもある】
■刑務所を出て家族のもとへ戻ったジョンドゥ(ソル・ギョング)は、家族たちから優しくない扱いを受ける。
彼の罪状はひき逃げによる過失致死、及び余罪である。
ある日、被害者家族を訪れた彼は、脳性麻痺のコンジュ(ムン・ソリ:今作の名演がありながらその後映画からは遠のく。幸せな生活を送られている事を願う。)と出会う。
2人はやがて惹かれあい、愛を育んでいくが、周囲は彼らを理解しようとしなかった。そしてある事件が起こり…。
■個人的な意見で恐縮であるが、ソル・ギョングさんは韓国俳優さんの中でも、好きな俳優Top10に入る方である。
マ・ドンソクの様に剛腕で魅せる訳ではないし、イ・ビョンホンの様にイケメンであらゆる役を演じる訳でもない。
だが、私が劇場で観た「名もなき野良犬の輪舞」体脂肪を極限まで絞った「殺人者の記憶法」傑作である「1987 ある闘いの真実」「君の誕生日」により、名優だと思っている。
今作はこの方の、若き日の作品であり、興味深く鑑賞した。
◆感想<Caution 内容に触れています。>
・幾つかの罪を追って刑務所で数年過ごし、出所したジョンドゥに対する家族の扱いは冷たい。後に明らかになる彼が親族の罪を被って、刑務所で過ごした事実を考えても、彼が家族にとって、お払い箱にしたい人物であることが分かる。
ー 彼が、軽い脳性麻痺、もしくは知的レベルの低い人物であることが分かる。劇中では、描かれないが。-
・そんな、ジョンドゥが【自らが犯した罪ではない】被害者の家庭を訪れるシーン。そこには、亡き父親の息子夫婦が引っ越しをする際中であり、一人残された軽度の脳性麻痺と思われるコンジュが居た。コンジュの兄夫婦は身体障碍者に支給される住居に住んでいるふりをして、自分達はその家を出て、一人残したコンジュの面倒を臨家の女性に託す。
ー これは、是枝監督作品にも通じる、利権だけを取る、家族の崩壊である。ー
・ジョンドゥは、コンジュの姿を見て、近寄り犯そうとするが、激しく拒否される。
ー 当たり前である。この時点はでは、ジョンドゥの悪性が全面に出ている。-
・だが、コンジュが一人残された姿を見て、ジョンドゥの中の僅かな善性が表面に出てくる。
ー 身障者の方々は、自分に近づいてくる人間の善悪を鋭く見抜くと巷間では言われているが、この辺りのシーンでは、強ち間違いではないかな、と思う。-
■ジョンドゥが、コンジュをカラオケに誘うシーン。彼女は上手く歌えないが、その帰り、地下鉄の駅で身体自由になったコンジュが、車椅子に座っているジョンドゥに優しく接する幻想的なシーンは忘れ難い。
<そして、コンジュが、ジョンドゥに対し”一所にベッドで寝ましょう‥”と言い、彼を誘うシーン。だが、その時にコンジュの愚かしき兄夫婦がやってきて・・。
警察に連れていかれたジョンドゥに対する扱いに対し、一人激烈に身体を張って抗議するコンジュの姿。
今作は、真の人間の善性と悪性を見事に抉りだした作品であると思います。>
とてもよかった
脳性麻痺の彼女と引き離されて切ないラストを迎えるのだけど、二人の恋が長く続いて倦怠が訪れたらどのような展開を迎えるのかと考えながら見ていて、もしかしたらそっちの方が残酷な結末だったかもしれない。
先入観の罪
愛は人それぞれ、それを歪にも美しく具象化した作品。
しかし、本当に歪なものは健常者の価値観であるという事実を突き付けられ、
果たして社会に蔓延する常識という呪縛を自分は払拭できるのだろうか?
そう考えてしまった。
この作品の描くもどかしさは、多様性のある社会とは私たちの見ている予定調和の
枠の外にあるのだということに気付かせてくれた。
目を背けるから何も見えないんだ
常識で行動するのが全て正しい訳じゃない
もしくは、正しく生きているばかりが求められている訳じゃない
視点を変えたら、人間味があって美しい生き方と言えるかもしれない
人になんと言われようとも、その人のために真っ直ぐに行動するのは、他人に迷惑をかける事になるかもしれないが、その人にはありがたいこと
障害のある人から、つい目を背けて、それがマナーだったり、優しさだと勘違いしていた自分に気付かされてしまう作品でした。
花送られて?
家押し入ってきて、凌辱された男に花贈られたくらいで気を許しますかね。かわいいって言われたくらいで、足舐められた男でっせ。無理あるでしょう、憎いし屈辱的だし、恐ろしいでしょう。
身障者の方が選んだ男がこんな男という設定は、
ピュアというよりイージーだし公平じゃないし、
ただお互いが孤独であるという以外に結びつきがない。
レイプされてもオーケーなくらい、相手選べないのは悲しすぎるでしょう。
少なくともこの映画内では多くの相手を選べない身障者の方の立場につけ込んだコミュニケーションと捉えられ、
恋愛を舐めてるような気もします。
ただ、役者がいい。モチーフの木の枝もいい。高速道路のお姫様抱っこも浮かれた至福の様子が伝わってくるし、演出に嫌味もない。部屋でインドの踊りに囲まれてのキスシーンも良かった。時々妄想の健常者としてのシーンも挟み込まれてあれはかなり切なかったです。
魅入るところはたくさんあり、
舞台設定だけどうかなという疑問をおいておけば、
良い映画だったと思います。
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