「大コケしたことを忘れて観るべき映画」ワン・フロム・ザ・ハート 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
大コケしたことを忘れて観るべき映画
この映画は、パリのアメリカ人(1951年)など、ハリウッド映画の黄金期である50年代のミュージカル映画を前提に、米国の人たちに勇気を与えるべく1982年に作られた映画。戦争中に作られた「カサブランカ」なども引用される。フランシス・フォード・コッポラは、莫大な資金をかけて、巨大なスタジオの中にセットを組み、当時の最新の映像技術(ビデオの採用など)を駆使して撮影した。
この映画の価値は既に定まっている。直接の後継として「ラ・ラ・ランド(2016年)」がある他、91年の「テルマ&ルイーズ」も設定が似ているし、「ソフィア・コッポラ」の都市の景観の撮り方にも引き継がれている。
では、なぜ公開当時、メディアの酷評を浴びたのか。それは、米国の状況を思い出せば、容易に理解されるだろう。米国はベトナム戦争の苦衷から抜け出すことはできず、社会は疲弊していた。LAの市内は、昼間でも歩く所ではないと注意を受けたし、NYのハーレムでは、廃墟が目立って、カラスの住みかとなっていた。人種差別も残り、女性の権利も今とは比べものにならず、喫煙も相変わらずだった。そんな状況で、この映画を見せられても、「金にあかして作った(語るまでもないような)安易なストーリー」との批判を受けるのは必定。しかし、英国やフランスでは、それほどでもなかったと聞く。映像は美しかったし、当時から音楽は評価されていた。
確かに、中年に差し掛かっている主人公ハンク(フレデリック・フォレスト)は、自動車解体工場を経営しているとはいえ、廃車の山が写るだけだし、ウエイトレスあがりの30歳代のフラニー(テリー・ガー)は、旅行会社のウインドーのディスプレイ作りがせいぜいか、それなのに、二人はラスベガス郊外の立派な家に住んで、それほど手間を掛けているとは思えないのに室内もきれいで、結構、派手な暮らしぶり。やや不可解な印象。
それでは、どこが印象に残るのか。前半では、背景になっているガラスに情景が写りこむと、今度は、ガラスの向こう側で、新しい場面がすぐに展開される。心の中では、ずっとつながっているのに、売り言葉に買い言葉で、引っ込みがつかなくなってしまった二人がどうなるか。それこそ、ワン・フロム・ザ・ハート(心からの思い)がぴったり。
倦怠期に差し掛かったお二人や、過去にそれを経験したことのあるお二人に、おススメ!