レッツ・ゲット・ロスト

劇場公開日:2025年11月21日

解説・あらすじ

ウエスト・コースト・ジャズの代表的存在として知られる伝説のジャズミュージシャン、チェット・ベイカーの最晩年の姿をとらえたドキュメンタリー。

1950年代からチャーリー・パーカーとの共演やジェリー・マリガンのピアノレス・カルテットへの参加で注目を集め、クールなトランペット・プレイと甘い歌声、端正なルックスで人気を博したチェット・ベイカー。私生活では多くの女性と関係を持ち、3度の結婚を経験、ドラッグに溺れて逮捕・服役を繰り返した。そして本作出演後の1988年5月13日、オランダ・アムステルダムのホテルの窓から転落し、58歳でその生涯を終えた。

本作ではカルバン・クラインやラルフ・ローレンの広告写真を手がけた写真家ブルース・ウェバーが監督を務め、1950年代から心を奪われてきたという憧れのスターの肖像を、ロマンティックな少年の心で映し出す。当時のファッション業界に新風をもたらしたウェバー監督の美学を通したさまざまな演出を交えながら、インタビューによる証言などを通してベイカーの破滅的な人生と私生活を浮かび上がらせていく。1989年・第61回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。2025年11月、4Kレストア版にてリバイバル上映。

1988年製作/119分/アメリカ
原題または英題:Let's Get Lost
配給:SPOTTED PRODUCTIONS、ツイン
劇場公開日:2025年11月21日

その他の公開日:1989年12月23日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第61回 アカデミー賞(1989年)

ノミネート

長編ドキュメンタリー賞  
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映画レビュー

4.5 ヤク中のロクデナシ、でも愛すべき最高のミュージシャン

2025年12月13日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

ウイリアム・クラクストンが撮ったチェットの写真が好きだが、この作品は監督ブルース・ウェバー、甘い空気感と鋭さを捉えたミュージシャンの美しい写真が有名な写真家、どちらの写真家の撮ったチェット・ベイカーも美しく格好良く、それだけ人の心を捉える画になる存在なのだと思う。
大好きなチェットのドキュメンタリー4Kレストア版ということで、勇んで鑑賞。つくづく、この人はその時代だから生きられた人で、今だったら絶対アウトと思う。本当にロクデナシ。でも、何故かミュージシャン仲間も、女性達もほっとけない。
彼の魅力はその声と、唯一無二のラッパの音色。レコーディング風景があるが、若干曇ってはいるけど、でも58歳でも全盛期とほとんど変わらないあの声。ドラッグと酒に溺れてるはずなのに、声が守られている不思議。生まれながらのミュージシャンと語られていたが本当にそうなんだと思う。ただ代わりに見た目がかなり老けていて70歳と言っても不思議ではないくらに見えた。58歳、早すぎる死だけど好きに生きたのだから神様はやはり平等なのかも。
ファンには最高の映画でした。

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まっちゃまる

4.0 人たらしのジャンキー、そして愛すべき天才音楽家

2025年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

癒される

幸せとは、人間はどうあるべきか。究極は素晴らしい音楽を残し、人を感動させることが正解なのではと思った。すばらしいスタイリッシュな人生。素敵な音楽。家族にはいてほしくない芸術家。

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KSクッキー

4.0 伝説の裏側

2025年12月3日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

本人や元妻達、子供達、それぞれの立場で自分に都合の良いチェット・ベイカー像を語っていく。本当の彼はどんな人だったのか見失いそうになるが、やがて自分の好きに解釈すれば良いし、それ以外の事は出来ないんだと当たり前の事に思い至る。彼の音楽が好きならそれだけで十分。
私の中では、昔近所に住んでいた腕はいいけどパチンコとお酒が大好きな大工のおっちゃん枠に落ち着きました。

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komasa

4.0 1988年5月 旅先アムステルダムのホテルの窓からの転落死でアルバム『チェット•ベイカー』を完成させたとも言える伝説のジャズ•ミュージシャンを死の直前まで追ったドキュメンタリー

2025年12月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ジャズの初心者が「1950年代60年代あたりのモダン•ジャズに興味を持ち始めてるんだけと、どのあたりから聴いていったらいい?」という質問をしたとします。可能性のある答えとして「まずマイルス•デービスのリーダー•アルバムをどんどん聴いてゆけばいい。他のプレイヤーもマイルスと組んだときにベスト•パフォーマンスをしていることが多いから最良のジャズが聴ける」というのがあります。なかなかいい回答だとは思いますが、これだと何人かのピアニスト、サックス•プレイヤー、ベーシスト、ドラマーには出逢えて聴き比べることもできますが、マイルスが吹いている限り、別のトランペッターには出逢えません。

私は1980年前後にジャズをかじりかけたことがあってマイルス•デービス(当時はまだ存命でした)やテナー•サックスのジョン•コルトレーンあたりの名前は憶えたのですが、ロックと比べるとジャズはやはり敷居が高く、チェット•ベイカーもその当時はまだ存命中だったはずですが、彼のところまでは、たどり着けずにいました。

私が彼の名を知ることになるのは今世紀に入ってからです。何がきっかけだったのか、まったく忘れてしまったのですが、私は50歳前後あたりから始まって数年間、’50〜’60年代あたりのジャズを聴きまくっていた時期があり、そこで彼と出逢い、お気に入りのトランペッターのひとりとなったわけです。

和田誠がジャズ•ミュージシャンたちの肖像画を描いて、そのミュージシャンひとりひとりについて村上春樹が文章を書いた『ポートレイト•イン•ジャズ』なる本があります(かなり熱心に何回も読んだのですが、どこにしまいこんだやらで行方不明です)。この本の冒頭にひとり目のジャズ•プレイヤーとして登場するのが他ならぬチェット•ベイカーです(たぶん)。村上春樹は彼のことを「紛れもなく青春の匂いがした」とか「何か特別なものを持っていた」とか書いていたはずです(たぶん)。

でも、その特別のものを持っていた期間はそんなに長くありませんでした。麻薬が彼を駄目にしました。また、そのスジの人たちに殴られて前歯を折られ、下顎を骨折するという、トランペッターにとっては致命的とも言えるケガもしました。

でも、そこから立ち直って音楽活動を再開するんですよね。このドキュメンタリー映画では再開から何年もたった彼の姿を捉えています。映画自体は1988年の製作で、恐らくは彼の謎の転落死の後にまとめられたもの。最晩年の姿と彼が「ジャズ界のジェームズ•ディーン」と呼ばれていた若い頃のフィルムとの組み合わせです。それにしても最晩年の彼の姿と言ったら…… まだ、50代半ばだったはずですが、70代のよぼよぼの爺さんみたいな風貌になっており、麻薬によるダメージの怖さを見せつけられた感じがします。

彼は歌も歌います。ファルセットの中性的なボイスでまあ「ヘタウマ」な感じですが、繊細で退廃的な香りもします。’50年代半ば頃に発表された彼のボーカルをフィーチャーしたアルバム『チェット•ベイカー•シングス』は私の愛聴盤のひとつです。10年ほど前の彼の伝記映画『ブルーに生まれついて』ではイーサン•ホークが彼を演じたのですが、ボーカル部分はイーサン•ホーク自身が歌っていたと記憶しています。

結局のところ、彼はジェームズ•ディーンが演じた映画の中の登場人物を思わせるような、儚くも美しい音色でトランペットを吹き、まわりの空気とこすれて消えてしまうのではないかという繊細で甘い歌声を披露して自らの青春をまっとうしたのではないでしょうか。そして、幸か不幸かはわかりませんが、彼には本家ジェームズ•ディーンにはない「その後」があったのです。麻薬中毒でボロボロになり、麻薬を巡るトラブルでトランペッターにとって命とも言える口のまわりのケガを負い、そして、再起して懸命に吹き、歌い、よぼよぼの容姿で欧州をさまよい、アムステルダムで58歳で生涯を閉じる「その後」が。

今、私はギタリストのジム•ホールがリーダーを務めたアルバム “Concierto” の『アランフェス協奏曲』を聴いています。開始四十数秒後、あのあまりにも有名な、ホアキン•ロドリーゴ作曲アランフェス協奏曲第2楽章のメロディに乗って、チェットの吹くトランペットが登場します。1975年4月録音ですので、このときチェット45歳。クスリとケガでボロボロになった後の再起にかけていた頃です。ジム•ホールのジャズ•ギターありきで構成されている曲ですので、チェットの演奏時間はそんなに長くないのですが、かつて何か特別なものを持っていた人間の青春の残響を聴いているようです。もう一方の吹奏楽器、ポール•デスモンドの奏でるアルト•サックスがしっとりと湿り気めいたものを帯びているのに対して、彼のトランペットは乾いた音色で、遠くに蜃気楼のようなオアシスが浮かぶ、美しい砂漠の景色を見ているようです。かつて持っていた特別な何かを失くしてしまったチェットは本当に人生の砂漠を見ていたのかもしれません。どこかにあるであろうオアシスを求めて。トランペットのソロ•パートに入ると懸命に吹くチェットの残像が浮かんできます。この残像は砂漠の蜃気楼かもしれません。でも、1929年12月23日アメリカ•オクラホマ州に生まれ、1988年5月13日にオランダ•アムステルダムで亡くなった、ジャズ•トランペッターで歌手でもあったチェット•ベイカーは確かに存在したのです。このことはいつまでも忘れずにいたいと思います。

合掌。

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Freddie3v