ラテンアメリカ 光と影の詩

劇場公開日:

解説

16歳の少年の父を捜す旅を、ラテンアメリカの痛ましい歴史と現実を浮き彫りにしながら描いた1編。詩的で美しい映像、時にユーモラス時にエネルギッシュな作風が魅力。監督・脚本・美術は「タンゴ ガルデルの亡命」「スール その先は…愛」のフェルナンド・E・ソラナス。製作はエンヴァール・エル・カドリ。撮影は監督の前2作にも参加したフェリックス・モンティ。音楽はアルゼンチン・タンゴの巨匠で監督の前2作も手掛けたアストル・ピアソラと、エグベルト・ジスモンティ、ソラナスの共同。本作は惜しくも92年に死去し、これが最後の映画音楽となったピアソラに捧げられている。主人公の少年役に、本作が映画デビューとなるウォルター・キロス。母親役を「暗殺の森」「ムーンリットナイト」のフランスの女優ドミニク・サンダが演じているほか、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、ブラジルなど南米各国から結集したキャストが南米文化の多様性を映し出している。

1992年製作/140分/アルゼンチン・フランス合作
原題:El Viaje
配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画
劇場公開日:1995年4月15日

ストーリー

マゼラン海峡の先、フエゴ島の“世界で最も南の町”ウスワイヤに住む高校生マルティン(ウォルター・キロス)は、自転車に乗って実父ニコラス(マルク・ベルマン)を捜してペルーを目指す旅に出発した。彼の心には母ヘレナ(ドミニク・サンダ)への反発心、地質学者で童話作家の父への思慕、恋人ビオレタとの別離、自分の将来への希望と不安が渦巻いていた。パタゴニアに渡った彼は、英国人の石油技術者がまるで、ここを植民地と見なしているのに出会う。疲れたマルティンを黒人のトラック運転手アメリコ・インコンクルーソが拾ってくれた。陽気な彼だが、祖先たちが奴隷として虐げられてきた略奪と虐殺の歴史は決して忘れない。マルティンは紅の衣をまとった〈恋の使者〉少女ビダラに出会うが、彼女は旅路の先々に美しい幻のように現れては消える。祖父母の住むブエノスアイレスは大洪水に見回れていた。亡命チリ人ボガの舟に乗り、町の中心部に向かったマルティンは、漂ってきた柩と出会うが、それは祖父のヌンカ検事のものだった。「私に会いに戻って来たのね」と泣き崩れる祖母は、ニコラスがブラジル人考古学者と再婚したことを告げた。浸水し、崩壊していく町を目撃したマルティンは、父も童話に書いた伝説の太鼓叩き〈気泡の使者〉ティトと出会い、彼を追う。だが、それは人間で太鼓も機械仕掛けだった。「忘却と闘う」と言う男の言葉にマルティンは、崩壊の果ての再生を思う。ペルーでは対外債務返済のための収税車が走り回っている。疲労で倒れた少年を開放してくれたアンデスの老人は、古代インカ帝国のケチュア語で、失われた文明の謎と豊かさを語った。一方、政府の搾取に耐えかねた農民たちは、ついに納税を拒否する。タスコの町で自転車を盗まれたマルティンを助けた物売りの少女ワイダは、犯され妊娠している。いたわり合い、そっと口づけを交わす2人。列車でブラジル国境を越え、父が働くアマゾン北部の金鉱を目指す。川で親切にしてくれた牧師は、コカインの売人でもあった。鉱山に父の姿はなかった。鉱山で旅費を稼ぎ、父の再婚相手のジャナイーナを訪ねたが、二人は既に別れ、父はメキシコへ旅立っていた。乗っていたトラックが山賊に襲われ、再びアメリコに助けられながらメキシコへ。父の友人で編集者のファウスティーノから、父が家に帰りたがっており、母を愛し続けていたことを聞かされて驚くマルティン。「もう父さんは捜さない。僕のそばにいる」。帰路につく少年の顔に微笑が浮かぶ。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第45回 カンヌ国際映画祭(1992年)

受賞

コンペティション部門
フランス映画高等技術委員会グランプリ フェルナンド・E・ソラナス

出品

コンペティション部門
出品作品 フェルナンド・E・ソラナス
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映画レビュー

3.0主人公が求めた"もの"しか見えてこない

2011年12月26日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

詩的映像美でありながらシニカルな映像を織り混ぜつつ、ラテンアメリカの今を写し出した作品。
パタゴニアやアマゾンなどラテンアメリカ独特の被写体を詩的に映しながらも、そこで生活を営む人々のリアルな現実が見えてくる。
ロードムービーとしてもマルティンの心情がしっかり変化を遂げられて完結している。
ただ、邦題からも分かるようにラテンアメリカを伝える手段として"言葉"に頼りすぎているように思う。
主人公の心が求めた本質は見えたが、"映画"という本質が見えにくくなってしまっている。

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keita