劇場公開日 2018年2月3日

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欲望の翼 : 映画評論・批評

2020年9月1日更新

2018年2月3日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

独特なスタイルで香港トップスター6人の魅力を焼き付けた奇跡的な群像劇

むせ返るような夏がやってくると必ず思い出す映画がある。30年前の映画だが、いまだに色褪せることはなく、むしろ輝きを増していると言っていい。その映画の登場は衝撃的だった。それまで見ていた香港映画のイメージを覆し、新しい感性を持った才能が現れ、新世代の香港映画の誕生を世界に知らしめたのだ。そして、俳優たちの美しさを永遠にフィルムに焼き付けた作品としても語り継がれるべき傑作である。

「今夜、夢で会おう」「1960年4月16日、3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない」こんなキザなセリフから始まる「欲望の翼」(1990)は、デビュー作「いますぐ抱きしめたい」(1988)に続くウォン・カーウァイ監督の長編第2作。1960年代の香港を舞台に、若者たちが織り成す恋愛模様を描いた青春群像劇だ。レスリー・チャンマギー・チャンカリーナ・ラウアンディ・ラウジャッキー・チュン、そしてトニー・レオンという当時の香港映画界を代表するトップスター6人が競演し、「あの時にしか生まれ得なかった」と言われるほどの奇跡的な映画。第10回香港電影金像奨で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)などを受賞している。

冒頭、タイトルとともに熱帯雨林がゆっくりと映し出され、じっとりとした高温多湿な雰囲気が作品全体を覆う。脚本も手がけたカーウァイ監督は、時間や数字へのこだわりをみせ、文学的なセリフと構成、モノローグを多用した語り口が特徴だ。さらに撮影監督クリストファー・ドイルのスタイリッシュな映像美とカメラワーク、ウィリアム・チャンの美術、そして印象的なラテン音楽が融合し、カンフー映画やノワール映画では見たことのない、独特なスタイルを提示。映画からはその“熱気”が伝わってくる。

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大きなかけ時計、にじむ汗と肌に張り付くシャツ、鏡、官能的な曲線美、電話ボックス、ハイヒールを履いた女性の足もと、紫煙、雨、警官の制服など、クローズアップや俯瞰、手持ちカメラ撮影による記号的なカットが随所にインサートされ、それらが積み重なることで主人公たちの心情を比喩的に表現する。特に顔のクローズアップを多用した男女のやりとりのシーンでは、ジョン・カサベテス監督の「フェイシズ」(1968)を想起させ、リアルな息づかいを感じる。

レスリー演じる主人公のヨディはナルシスティックだが、実の母親を知らず空虚な心で生きている男。実は養母と息子の関係が物語の主軸となっている。そんなヨディに惹かれる女をマギーとカリーナが、彼女たちに思いを寄せる男をアンディとジャッキーが演じ、携帯電話など普及していない時代の彼らの刹那的な思いは交錯するが、それぞれが孤独を抱え、わかり合えずにすれ違っていく姿は切ない。カーウァイ監督は役者たちの魅力を最大限に引き出し、気だるく憂いを帯びた瞳のヨディは、レスリーしか演じることはできなかっただろう。

そして、印象的に登場するトニーがどんな役を演じているのかは見てのお楽しみ。そのモチーフが名作「花様年華」(2000)、さらに「2046」(2004)へ引き継がれていることを知ると、映画の楽しみ方がさらに広がっていく。

和田隆

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