バンド・ワゴンのレビュー・感想・評価
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ハリウッド全盛期におけるザッツ・ミュージカルの誇り高き充実度
ハリウッド全盛期のMGMミュージカルの代表作を漸く鑑賞して、この見所満載の完成度の高さにとても感心してしまいました。後世の評価では前年公開の「雨に唄えば」が有名で、私も高校生の時に観たMGMミュージカルのアンソロジー映画「ザッツ・エンターテインメント」で知り得たものの、この作品については永らく関心を持つことがありませんでした。因みにアメリカの映画団体AFIが2006年に選出したミュージカル映画ベストでは、「雨に唄えば」が第1位に選ばれたの対して、この「バンド・ワゴン」はベストテンにも入らず第17位です。古典の名作の中で、当時流行したり高い評価を得ても時代が変われば忘れられたりするものですが、特にミュージカルのジャンルは観る人の好みが大きく分かれる特徴から世間的に再び注目されるのは稀です。名立たるミュージカル映画の中でアメリカ映画に絞れば、前出の「雨に唄えば」の他に、「ウエスト・サイド物語」、「サウンド・オブ・ミュージック」、「巴里のアメリカ人」に並ぶ名作と言っていいと思います。(他に断片的にしか観ていない「トップ・ハット」と「四十二番街」も付け加えたいところですが)
先ず素晴らしいのは、トップハットと燕尾服とステッキがトレードマークの紳士的ダンサー、フレッド・アステアの魅力が全編に生かされたミュージックナンバーの演出と美術のどれもが個性的で、上品な歌唱とダンスを披露していることです。脚本は「雨に唄えば」のベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの名コンビが担当して、当時50代でも活躍していたアステアを忘れ去られた、かつてのスター役という大胆な発想から、再起を賭けるスターの挑戦をユーモア豊かに表現しています。プロローグのトレードマークの品が競売にかけられ50セントでも売れない軽いコントから始まり、ニューヨークに到着して自分のために報道人が駅に押し寄せていると期待したら、それは美人女優エヴァ・ガードナーが目的だったというオチの可笑しさ。このカメオ出演のガードナーの圧倒的な存在感の驚き。孤高の美しさと姿形の完璧さ。リアリティの現代とは価値観が違う、夢を与える時代のスターの輝きには素直に圧倒されます。舞台演出家ジェフリー・コルドバが、レビュー主体の原案を当時流行の芸術系の内容に改変して、重々しい『ファウスト』擬きミュージカルが不評に終わる展開も面白い。そこに至る支援金集めにパトロンに熱く語るコルトバを、色んなドア越しに見せる工夫の巧さ。このカリカチュアの巧さは、脚本家コンビのコムデンとグリーン本人たちをモデルにした演劇人マートン夫妻をストーリーに組み込んだことで、ブロードウェイの演劇界の裏を知り尽くした作家の正直な告白としての真実味があります。表面は華やかでも舞台裏では苦労や衝突が絶えず悩まされる作家や役者たちが、如何にその困難を乗り越えてエンターテインメントに全精力を捧げているか。全ては観客を満足させることが目的で、賞賛に酔えるのは舞台のカーテンコールのみ。
名場面を幾つか挙げれば、主人公トニー・ハンターが42番街の想い出の劇場あとのパニー・アーケード内の遊戯場での靴磨きの男性とのダンス。様々な遊戯機を紹介しながら、アステアが楽しくダンスを披露します。ロボット占いの機械には生の人間のアラブ風女性が入っていたり、謎のボックスが最後派手に種明かしされたりと、観ていて飽きません。この軽やかなシーンに続くジェフリー・コルトバの登場シーンの重々しさ。原色の鮮やかな色調が特質のテクニカラーを最大限に生かした舞台『オイディプス王』のラストシーンから、主要登場人物4人が初披露するナンバー、それが“ザッツ・エンターテインメント”の曲です。調べると、この作品で唯一の書き下ろし曲で、作詞ハワード・ディーツと作曲アーサー・シュワルツが依頼を受けて30分程の時間で作られたとあります。舞台の小道具を生かしたレビューになっていて、楽しく快活で印象に残るその曲の初登場でした。次に身長差を危惧していたハンターと、ダンスの相性に疑念を抱いていたガブリエル・ジェラードの二人がわだかまりを解消しようと馬車のデートに出掛けて公園で踊るシーンの美しさ。白いロングドレスを身に纏い優雅にバレエを踊るシド・チャリシーが素晴らしい。最も価値のある脚の持主と謂われた、その長く細く、それでいて軽やかな動き。それを支えるアステアの踊りもスマートで粋です。最後二人が踊りながら階段を駆け上がり馬車に戻るまで完璧です。二人が分かり合う段階に自然と流れていく様子を映画的な演出でまとめた名シーンと言えるでしょう。ジェフリー・コルトバ演出の初日公演が失敗に終わった後の、キャスト全員が集まったホテルの場面もいい。失敗から新たに挑戦しようと役者たちが奮起するこの場面の、各キャストの衣装の色彩のコントロールが見事。テクニカラーの良さがここでも生かされていて感心してしまいました。
そして、新作のレビューがフィラデルフィア、ボストン、ワシントン、ボルチモア、ニューヨークと一つずつ紹介される怒涛のクライマックスでは、ルイジアナ・ヘイランドとガール・ハント殺人ミステリー・イン・ジャズの二つが特に気に入りました。干し草の馬車を舞台中央に置いて、ピクニックに興じる若者たちの青春讃歌を謳い上げるシンプルなレビューでも、リリー・マートンを演じるナネット・ファブレーの屈託のない明るさの確かな歌唱の安定感と、ラストの皆が馬車に乗り込む盛り上げ方に観る、暗転の簡潔にしてインパクト充分な演出がいい。最後のガール・ハントは、シド・チャリシーの衣装の七変化宜しく、謎の女性と私立探偵ハンターが活躍するドラマ仕立てのレビューの傑作です。黄色いレインコートから、黒のドレス、淡いブルーのドレス、そして赤いドレスまで着こなすチャリシーの美しさと上品な色気。舞台そのままではなく、映画演出を施したスピーディーな展開と遊び心が一つになった、この映画の素晴らしいクライマックスと言えるでしょう。
最後はスタッフ・キャスト・舞台関係者全員から感謝と称賛と愛を受けるトニー・ハンター、つまりフレッド・アステア本人への讃歌で閉め、舞台が世界、世界が舞台のエンターテインメントと“ザッツ・エンターテインメント”を謳い上げて終わります。 舞台のカーテンコールを模した、この終わり方の粋さがいい。
公園でアステアとチャリシーが踊る曲が、1931年の舞台『バンド・ワゴン』の“闇に踊る”から引用されている様に、全てが1930年代の有名な曲を採用しています。その舞台は、アステアにとって姉アデール・アステアとの最後の舞台共演だったそうです。これらから言えることは、過去のブロードウェイ・ミュージカルの最高のスピリットを凝縮した、MGMミュージカルの集大成的映画であり、主演アステアにとっても感慨深い出演であったという事でした。そんな歴史的背景から生まれた大作を、監督のヴィンセント・ミネリが手際よくまとめ上げたコメディ・ミュージカルの魅力満載の記念碑的名作。これからも、もっと評価されて然るべきザッツ・ミュージカルの逸品と言えるでしょう。
スタア誕生でジュディ・ガーランドが銀幕から消えた。 この映画でフレ...
スタア誕生でジュディ・ガーランドが銀幕から消えた。
この映画でフレッド・アステアがやはり銀幕から消える。
そう言えば、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、チャールズ・チャップリン、ジーン・ケリーって60年代に入ると威勢がなくなる。アカデミー賞の主演なんとかを受賞した俳優も60年代になってからはいない。ビング・クロスビーが取ったのは昔。チャールズ・チャップリンがライムライトで作品賞をとるが、特別賞みたいなもの。
さて、この映画は初頭にワグナーやメトロポリタンのオペラをディスる場面がある。メトロポリタンとブロードウェイが混在する街ニューヨークの魅力を語っている。フレッド・アステアが『古典?!』と嘆くシーンがある。がしかし、フレッド・アステアは基本のしっかりしたダンサーでもあるので、当然『台詞』と判断できる。さてさて、最後のエンターテイメントはまさにジョージ・ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーを彷彿させる。JAZZ風と言っているが、まさにモダンバレー。キャストもフルに使って、長回しのダンスはキチンと決まる。
がしかし、この後のアメリカ映画は衰退の一途を辿る。多分、テレビが影響すると思う。例えば、スティーブ・マックイーンもクリント・イーストウッドもテレビ出身であることは忘れてはならない。そして、フレッド・アステアのタワーリング・インフェルノでの扱われ方を見て、映画の内容も含めて、ハリウッドの衰退を多いに感じた。そして、60年代に入ってから、アメリカンニューシネマと称して、新しい幕開けの様に語られるが、実にマユツバな例えである。さて、それはなぜだろう。
そして、現在。とうとう、ボディラインまで、コンピュータで加工する時代になった。俳優はいらない。日本アニメの全盛と思いきや、金をかければ、そりゃハリウッドのほうが面白い映画が作れるし、歌やダンスだけだったらインド映画のほうが、はるか上空を行く。
舞台裏ミュージカル
フレッド・アステア54才、役柄の上なのか往年の軽快さは観られませんが「ララ・ランド」がオマージュしたのでしょうか街灯バックの公園の踊りは素敵でした。ガブリエル(シド・チャリシー)のバレーシーン、踊りもさることながら余りの美脚(500万ドルの保険が掛けられていたそうだ)にめまいがしそう。コメディタッチですが余り笑えずステージ・シーンも断片的、三つ子の踊りはマジックの様で不思議、歌も踊りも悪くはないのですがフレッド・アステアはマンネリ感が拭えませんでした。私の僻みでしょうか、どうみてもラッキョウ顔のおじさんと若い美女が結ばれるのは頂けません、ミュージカルだからといって無理やりロマンスを入れなくても楽しめるのですから。
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