ハリーの災難のレビュー・感想・評価
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大自然に死体。緊張感ゆるゆるな不条理ムービー
ヒッチコック作品の中でもひときわ異彩を放つ一作だ。大自然の中で見つかった男の死体。気のいい元船長は自分の猟銃の流れ弾に当たったのだと思い、通りかかったご婦人とも結託して隠蔽に努めるのだが、やがて意外な真相が判明し・・・。冒頭から男の子が死体を発見するブラックさを香らせつつ、「自分のせいだ」と口にする元船長はフワフワとしていてどこか緊張感に欠ける。目の前の死よりも、全く別のところに気を取られているご様子。これを見た人は「なんてシュールな」と困惑してしまうはずだ。そんな矢先、ふと思い出したのはベケットが52年に発表した「ゴドーを待ちながら」。待てども暮らせどもゴドーは一向にやってこない。やってくる気配さえない。この不条理さはどこか55年の映画「ハリーの災難」と似ている。新しいもの好きなヒッチコックが当時の最先端の不条理ジャンルに挑戦した、いわば実験作のようなものではないかとも感じる一作である。
謎解きとブラックユーモアがもたらす風変わりなヒッチコック映画の良心作
グレース・ケリーが連続出演した「ダイヤルMを廻せ」「裏窓」「泥棒成金」の次に制作され、ヒッチコック作品にしてはサスペンスやスリラーの題材からは打って変わって、長閑な田舎町を舞台にしたブラックユーモアが特徴の風変わりな作品。アメリカ北西部のカナダ国境にあるバーモント州クラフツベリーの美しい紅葉風景とそこに住む質素な生活を送る人々の自然と人間が調和したような静穏な場所で事件が起こる。それも一体の遺体が物言わぬキーパーソンとなり、この人間に関わった人たちが複雑に絡んで物語を進めていって、最後は幸運がやって来ます。誰に殺されたのか、何故死んだのかのミステリーの謎解きを最後のクライマックスまで引っ張るまでの人間模様の可笑しさと、その死因解明が為される場面のスリリングな演出の巧さが光ります。ヒッチコック監督の幅広く豊かな才能を改めて実感できて、微笑ましく観終えることが出来る良心作でもありました。
主要登場人物9人が入れ代わり立ち代わり丘と各家に現れて、各自の事情からハリーの死体を何度も埋めたり掘り起こしたりするのが可笑しいのだが、妻ジェニファーの家で最終判断されるまでの伏線となる小道具の扱いも面白い。アーニー少年が見つけたウサギがサムのカエルと取り替えられ、それでもウサギを借りたアーニーはアイビーの手作りのマフィン2個と交換する。居合わせたアルバート元船長が、それで自分が撃った3発目の銃弾を知る流れ。そのアルバートを持て成すアイビーは彼の為にカップ&ソーサーを購入していて、女性一人の寂しい生活が長かったことが解る。殺人の身代わりになってくれるアルバートに心とは裏腹に毒舌を吐くところも、男性慣れしていない証拠です。ホームレスの男は革靴を盗んでいくが、それが保安官代理のカルヴィンの手に渡り殺人事件に気付かれる。事件が殆ど無く報酬が歩合制から、嗅覚が鋭い設定も可笑しいです。売れない画家サムは、偶然遭遇した死体の似顔絵をスケッチしてしまう。いくら画家とは言え見知らぬ死体を作品にするのは変人だし、そもそも美しい自然が見渡す限りの絶景に住んでいながら、風景画を描かず素人が理解不能の前衛作品ばかりでは売れないに決まっている。この似顔絵をホームレスに見せて、死体があった事実に至るカルヴィンの鋭さ。アルバートは、元船長と言いつつも何処か臆病なところを見せて、人柄はいいのだが気は小さい。最後大海原を航海する船長ではなくタグボートしか操縦してなかったことを告白するところがいい。皆が彼の正直さを認めてくれるまで親しくなったと思えたからだろう。このたった一日の出来事で、交友が薄かった人たちが親密になっていくストーリー。サムとジェニファーは婚約し、アルバートとアイビーも会話が楽しめる熟年カップルになりそうなのだ。結果論からすれば、アーニーが発見した時直ぐに保安官代理のカルヴィンに通報していれば良かったし、穴掘りで丘に何往復もする必要も無かった。でも、この不安と秘密を共有することで人間関係にもたらす効果は決して小さくない。
サムとジェニファーの入籍手続きを急ぐために、ハリーの遺体を彼女に家に運んで土中に埋めた痕跡を無くす場面が素晴らしい。サムはクローゼットのドアに寄り掛かり、カルヴィンは似顔絵を持ってサムに問い詰める。もしかしてハリーが中に入っているのかと思わせる演出の悪戯です。加筆してカルヴィンを怒らせるサムが安堵した瞬間ドアが開き音が鳴り、帰りかけたカルヴィンが戻ってきて、浴室が見えるショットの構図の見事さ。ハリーの足だけが浴槽から出ているも、アーニーの声に反応して見下ろすカルヴィンの視線からは中は見えない。慌ててドアを閉めるジェニファーで一安心も、そこにグリーンボー医師が登場。クローゼットのドアがよく開いてしまう事や、ハリーの顔より足を強調して扱ってきたことの効果が効いています。そして、アルバートの機転を利かせた皮靴の奪還成功でハリーを元の場所にそのまま戻せるというオチでした。これによって被害者はカルヴィンとアーニー君のふたりになります。
20歳のシャーリー・マクレーンが初々しい。子持ちの母役で、子供が6歳ぐらい。この時のアメリカでの高評価は日本にも届いていたようで、双葉十三郎氏の評論でも触れられています。5年後の「アパートの鍵貸します」と同じく、実年齢より大人の演技ができた新人扱いは、実力が認められていたからでしょう。ヒッチコック監督に選ばれただけのことはあります。「三十四丁目の奇蹟」のエドマンド・グウェンは、この時77歳で何とも言えない存在感と味のある演技。あとジョン・フォーサイスとミルドレッド・ナトウイックも手堅い演技で、この主演4人のカルテットの演技は親しみの持てる響きを持っている。初めてヒッチコック作品に音楽を付けたバーナード・ハーマンのユーモアのある軽妙な音楽と、ロバート・バークスの技巧を敢えてひけらかさないオーソドックスなカメラワークも落ち着いていて、其々にいい。
ヒッチの異色作
ヒッチには思い入れが深い作品ですが世界中でヒットしなかった作品です。
確かにいつものヒッチを期待してゆくと肩透かし、というより何を言いたかったのかよくわかりません。
ブラックとかユーモアサスペンスなんて言葉で批評されることが多いですが、一言で言えばシュールです。わかり易くいえばファーゴの原型、コーエンブラザースが演出したら面白そうです。
死体が目の前に転がっているのにあののどかさ、平穏さ。善玉なのか悪玉なのか見当もつかない登場人物。犯罪は喜劇、というヒッチお気に入りの言葉を具体化した作品だそうです。
ライトタッチで変化球ではありますが、ヒッチらしいスリラーとサスペンスに満ちています。
マクーレーン先輩初期の出演作ですが撮影中ヒッチとは合わなかったらしいです。尤もヒッチはすごく褒めてますけど。
【”誰がハリーを殺したの!”誰もが容疑者の疑いがある中、何度も土に埋められては掘り返される無言のハリーと彼と繋がりが在った人たちとの姿を描いたブラック・コメディ。クスクス笑える作品です。】
■秋の森で、ハリーという男が死体となって発見される。
すると、第一発見者である少年アーニーの母親ジェニファー・ロジャース(シャーリー・マクレーン)、ハリーに襲われそうになった中年婦人グレイブリー、禁漁区で狩猟をしていた元船長ワイルスら、ハリーを殺したのは自分だと信じて疑わない人々が次々と現れて、物語は次なる次元に移って行く。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・最初からハリーが倒れているのに、誰も彼の死体を保安官補のカルビンに届けずにオロオロする姿が可笑しい。
・可哀想なハリーは、何度も土に埋められ、再び掘り返されるのである。クスクス・・。
・散策しているグリーンボウ医師に至っては、彼が倒れているにも関わらず、何度も彼の傍を本を読みながらブツブツ言い続けている。
ー で、ハリーに引っ掛かって転ぶ。-
■売れない画家、サム・マーロウ(ジョン・フォーサイス)の絵を全て買うというお金持ちが現れて、マーロウはハリーの死で憂鬱になっていた人たちに贈り物をするのである。
その姿を見て、ハリーの妻であったジェニファー・ロジャースはハリーと違って紳士的なマーロウに惹かれるのである。
<で、ハリーが死んだ原因を明かすグリーンボウ医師の言葉。思わず脳内でずっこけるが、皆がホッとする姿が、コレマタ可笑しいのである。(ちょっと、可哀想なハリーだが、彼の生前の容疑者達が言う行いを考えると、仕方がないかな、とも思ってしまうのである。クスクス。
今作は、アルフレッド・ヒッチコック監督がブラックユーモアとサスペンスを絶妙に織り交ぜたコミカルなミステリー作品なのである。>
ハリーのつぶやき
やっと見つけたんだよ
まさか私のことをそんなふうに思っていたとは知らなかった
私はただただ彼女のことを思ってやって来ただけなのに
殴らなくたっていいじゃないか
頭はクラクラしてきてどうにも焦点が定まらない
どうにもまともに歩くことさえできないではないか
もう一度彼女に言おう、戻ってほしいと
力尽くでも連れて帰ろう、きっと彼女は悲しくて辛い生活をしているはずなのだから
なのに今度は靴で殴られてしまった
どうも胸まで苦しくなってきた、あぁ〜息をするのも辛い
苦しい、痛い、胸が痛い……
子供が居る…
誰かが私の足を持って引っ張ろうとしているぞ
まったくとんでもない一日だった、一日か?
昨日の明日は明後日じゃなくて今日のはずなのに
とにかくもうゆっくりとさせておくれ
とんだ災難だ
アーモンド州の紅葉が美しいカラー映画
ハリーという人が森で死んでおり、船長は自分の流れ弾にあたったと思い死体を隠そうとするが、何人も人がやってきて誰も死体を見て驚かない。
シュールな謎めいた映画。30才という画家の男性は50代ぐらいに見える。
知らなければヒッチコックの映画だとわからない。コメディということだけど声を出して笑うところがある訳じゃない。
特筆すべきはアーモンド州の紅葉が何とも美しいところ。
ひとつの死体(ハリー)をめぐって。 死体を見ても驚かない連中に驚か...
異色のようでこれもヒッチコックの代表作のひとつにいれるべき作品かも知れない
本作は特にそのユーモアとウイットに焦点を当てて中心に据えた作品で、その点で他の作品とは毛色が異なる
しかしこれもヒッチコック映画の特徴をなす柱であるのだから観てないとファンとは名乗れない
基本、舞台劇にこそ合う物語だ
ビスタビジョンのワイドなカラー映像には無駄に広く美しくもったいない
なのでヒッチコックは村の林の秋の紅葉を雄大に美しく撮って見せているがそれは大人の事情
映画の内容は白黒の従来サイズで十分なものなのだ
大女優シャーリー・マクレーンは本作ごデビューで確かな存在感を示している
バーナード・ハーマンがヒッチコックに初めて音楽を提供した作品でもある
異色のようでこれもヒッチコックの代表作のひとつにいれるべき作品かも知れない
意外とアメリカでは興行不振だったらしい。かなりアメリカ的なブラッ...
とりあえず4人はハリーに謝りなさい。
「ハリーの災難」DVD 字幕版で鑑賞。
*概要*
ある小さな村でハリーという男の死体が見つかる。村では様々な理由で「自分がハリーを殺してしまったのでは?」と思い込む人物が何人もいたため、彼らはそれぞれの保身のためにハリーの死体を埋めたり掘り返したりすることになる。やがて村の保安官が動き出し、事態は意外な方向へ展開していく。
*主演*
エドマンド・グウエン
*感想*
ヒッチコック作品巡り第七弾!今回のヒッチコック作品はコミカルに描かれてるし、ユーモアを前面に出してるのが印象。他の作品では、サスペンス&シリアスな要素が強くてもユーモアを忘れない。それに対して、今回はコミカルに描かれてた。
ハリーを誤って撃ち殺してしまったと思ってるアルバート、ハリーの死体を見て何故かスケッチを描く絵描きのサム、夫の存在が嫌になったハリーの妻・ロジャース、突然襲ってきて正当防衛の為に靴のかかとで殴ったと告白するグレブリー夫人の4人がハリーの死体を巡るドタバタ劇。
会話シーンがダルくて何度も眠くなるし、ハリーの死体を発見しても驚きもせず、足で踏んだり、蹴ったりしてツッコミ所はありましたが、楽しかったです。
タイトルの通り、ハリーがホントに災難な目に遭ってますw ハリーを自分が殺したと思ってる村の人が何度も埋葬したり、掘り起こしたり、ホントに災難です。。(^^;
今回のオチは納得!スッキリはした…かな?
とりあえず4人は、ハリーに謝りなさいw
ツッコミ所はありましたが、ヒッチコック作品の中で一番コミカルな内容。ブラックユーモアを描きつつ、サスペンスでもあったし、何度も眠たくなりましたが、面白かったです。(^^)
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