【イントロダクション】
世界初の本格的なコンピューターグラフィックス(CG)を導入し、電脳世界を可視化し、システムを擬人化して描き出すディズニー製作のSFアクション。
出演はジェフ・ブリッジス、ブルース・ボックスライトナー、シンディ・モーガン。
監督・脚本はスティーブン・リズバーガー
また、後に『シザーハンズ』(1990)、『チャーリーとチョコレート工場』(2005)等大ヒット作を数多く手掛ける若き日の巨匠ティム・バートンがアニメーターに参加している。
【ストーリー】
かつてソフトウェアメーカー「エンコム社」に勤めていた天才プログラマーのフリン(ジェフ・ブリッジス)は、大ヒットゲーム「スペースパラノイド」を開発したものの、全データを同僚のデリンジャー(デビッド・ワーナー)に盗まれ、手柄を横取りされてしまう。
デリンジャーは同作の成功を機に筆頭役員にまで出世し、フリンはエンコム社を去って街のゲームセンターを経営する。フリンはデリンジャーに盗まれたデータの所有権が自分にある事を証明する為、夜な夜なエンコム社のシステムにハッキングを仕掛けるようになる。しかし、ハッキングプログラムはデリンジャーが開発したマザー・コンピューター・プログラム(MCP)に悉く阻まれていた。
一方、フリンのハッキングに気付いたエンコム社のかつての同僚・アラン(ブルース・ボックスライトナー)は、物質転送装置開発部に勤める恋人のローラ(シンディ・モーガン)と共にフリンを訪ねる。
実は、デリンジャーの開発したMCPはネットワーク上のあらゆるシステムを学習、掌握し、人間を管理し始めようとしていたのだ。フリンはアラン達に社内から直接ネットワークにアクセスさせてほしいと懇願し、アランもまた自身がプログラミングした監視プログラム「トロン」を用いてMCPを破壊する事を目的に協力する。
アラン達の協力を得て社内に侵入した3人だったが、MCPは侵入を察知しており、フリンは実験段階の物質転送装置によって電脳世界へ送り込まれてしまう。
フリンは囚われた先で、アランそっくりのプログラム「トロン」と出会い、計算プログラムのラム(ダン・ショア)やローラに酷似したプログラムのヨーリらと共にMCPを破壊する戦いに挑む。
【感想】
シリーズ最新作『トロン:アレス』鑑賞の予習として。
当時としては最先端の映像革命だったでだろう電脳世界の映像も、今日では古き良きCG描写となって何処か温かみを帯びて映る。
と同時に、ものっすっっっごく目がチカチカするのだが(笑)
電脳世界へ入り込む映像は、2000年代にカプコンから発売されたゲームボーイ・アドバンスの大ヒットシリーズ『ロックマンエグゼ』を彷彿とさせる(私が当レビューで“電脳世界”という言い回しを好んで使っているのも本作の影響から)。
この時代に電脳空間を可視化し、プログラムを擬人化して描いてみせるという先駆的なアイデアが素晴らしく、監視捕獲ユニットの前衛的なデザインも印象的。電子回路風の発光する衣装デザインのセンスやデータを記憶し武器としても機能するディスク、バイクレースによるシーンも見所。しかし、当時のアカデミー賞ではコンピューターアニメーションの仕様が不正行為と見なされていたらしく、視覚効果賞にはノミネートすらされなかった様子。
フリンとエンコム社の関係、MCPの独裁と暴走、トロンを用いてMCPの破壊を試みる為に社内に潜入するまでの流れもテンポが良くスマート。しかし、フリンが電脳世界に囚われて以降のストーリー展開は一気に失速し始め、行き当たりばったりな展開も多く、最終的に「何となく上手く行きました」といった結末に落ち着いてしまったのは残念でならない。ストーリー展開までは時代を先取り出来なかった様子。
その原因の1つには、サブキャラクターであるアラン達の「世界を救う為にMCPを破壊する」という作品の核となる目的と、主人公であるフリンの「デリンジャーの不正を暴いて、自分が本来手にするはずだった権利を取り戻す」という目的、それぞれ別々の目的を胸に中盤まで行動していることが挙げられる。
フリンもまた、MCPによって電脳世界に囚われてしまった事で、「トロンと協力してMCPを倒して現実世界に帰還する」という目的にシフトしていくのだが、物語を引っ張っていくメインのキャラクター達が目的を一致させるまでに一悶着ある為、まどろこっしい印象を受けるのかもしれない。結果、物語の軸がボヤけていて序盤の没入感を削いでいるのだ。
高く評価されている音楽についても、時代性を考慮しても先進的な印象は受けず、「古い映画音楽」という印象だった。というのも、本作の2年後である1984年には、ハロルド・フォルターメイヤーによるシンセサイザーを用いた楽曲が特徴的な『ビバリーヒルズ・コップ』が公開され、楽曲と共に大ヒットを飛ばすのだが、そんな先進的な映画音楽を引っ提げたノリの良いアクション大作の前には、本作の音楽では太刀打ち出来ない壁があるように感じられてしまう。
そんな中でも、キャスト陣の個性は印象に残る。中でも特に、若き日のシンディ・モーガンが抜群に美しく、眼鏡姿は知的で可愛らしい。モーリの際の発光する電子回路風の衣装に身を包んだ姿も、その持ち前の美しさと優れたプロポーションから、ギリギリ間抜けに見えるのを防いでいる。
本作の後、映画では目立った活躍がなく、ドラマをメインに活動したそうだが、2023年に69歳で自然死で亡くなってしまっているのが惜しい。年齢を重ねても、特徴的な美しい青い瞳とブロンドヘアは健在だった様子。
若き日のジェフ・ブリッジスの姿も印象的で、シリーズ最新作『アレス』の予告編で見せた威厳ある姿とは対照的に、飄々としつつも血気盛んなイメージだ。
兎にも角にも、シリーズの幕開け(本作の時点では、シリーズ化の予定はまず間違いなく無かっただろうが)として、先駆的な世界観を堪能する事が出来た。
【総評】
当時の最先端技術を本格導入して描かれた電脳世界は、システムを擬人化して見せるというアイデア含め十分に楽しめた。ここからどう続編である『トロン:レガシー』(2010)に繋がっていくのか、映像技術の進歩とも比較して楽しみたいと思う。