「ありがとう、午前十時の映画祭」ドライビング・MISS・デイジー 大吉さんの映画レビュー(感想・評価)
ありがとう、午前十時の映画祭
観ている間は面白くても観終わったらすぐに忘れてしまう映画がある(特に最近多いように思う)。
何年も、何十年も前に一度観たきりなのに、いつまでも脳裏に焼き付いているシーン、胸に響く台詞、耳に残っている音楽、、、忘れられない作品がある。
この映画はまさしく後者で、あの軽やかな旋律のテーマ曲がいつも耳に浮かんでくる。
公開時以来の鑑賞。なんとなんとまたまた音楽ハンス・ジマー。あの耳に残っていたメロディはハンス・ジマーの曲だったんですね。
ドイツ系ユダヤ人の頑固な未亡人と、その息子に雇われた黒人ドライバーの長き年月にわたる交流が淡々と描かれる。
無法松や佐吉のような献身的な愛ではない。
ホークはミス・デイジーに無神経な言葉をかけられれば言い返すし、雇い主である息子にちゃっかり交渉して給料も上げさせる。
主従関係や、人種、宗教を超えてひとりの人間として向き合っている。
大きな事件が起きる訳でもない、悲劇の結末やほっこりしたラストが待っている訳でもない。
老人介護施設で暮らすデイジーを訪ねたホークが、スプーンを取ってパイを食べさせてあげる。
ただそれだけのラストシーンに、なぜか涙が止まらない。
この涙はどういった感情から出てくるのだろう。
悲しくて、嬉しくて、怖くて、可笑しくて、興奮して、、いや違う。
まるで山頂で御来光を仰いだ時に自然と溢れてくる涙のようだ。あのラストのふたりの姿はそれほど神々しいものだった。
今、改めてこの作品を観ることができた幸せ。午前十時の映画祭、ありがとう。
アカデミー主演女優賞を受賞したジェシカ・タンディと、モーガン・フリーマンが素晴らしかったのは言うまでもないが、ダン・エイクロイドがとても良かった。
当時、コメディ作品以外で彼を見たのは初めてだった。
妻と母との板挟みになりながら愛情と理解と優しさに満ちていた。ダン・エイクロイドじゃなかったら、作品の雰囲気が違ってただろう。まさしく好演。