地下水道のレビュー・感想・評価
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追い詰められていく恐怖。
映像文化ライブラリーでの「ワルシャワ蜂起 メモリアル上映会 Warsaw Uprising memorial 」で鑑賞した。
上映前に、ヨアンナ・サドフスカ氏(ワルシャワ蜂起博物館学芸員)による15分程度の紹介挨拶があった。
「アンジェイ・ワイダ監督によるとこの映画は「半英雄的」とのこと。
ソ連の影響の中、共産体制のもとでチェックを受け許可を得て撮影が始まった。
後半のシーンの地下の下水道はセットで撮影された。まだ当時の状況を知る多くの人が生きている中で、勇ましく戦うシーンを期待した人が多かったが、この映画はそうではなかった。
しかし、第10回カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞(1957年5月)で評価が変わった。」
ドイツ軍に追い詰められ兵士たちは、地下水道で移動することを余儀なくされる。どこに行けばいいのか。暗闇の中で不安と恐怖が襲う。中でも女性が兵士とともに移動するが力強いのである。たんだんと精神的に追い詰められる絶望的な中で、エンディングに向かう。ポスターの写真はエンディングの中のシーンの一つ。
この映画は、ワルシャワ蜂起の歴史的、政治的な流れをある程度調べて見たほうがいいと思う。この映画ではそのような説明はほとんどないのだから。また、派手な戦争シーンもほとんどない。
日本でも戦後多くの戦争映画が製作されたが、兵士の戦いの悲惨さを描く映画も多かったように思う。
<映像文化ライブラリーの解説>
ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督のデビュー作『世代』と、続く『灰とダイヤモンド』と共に抵抗三部作と呼ばれている1作。ドイツ占領下のワルシャワを舞台に、ドイツ軍に追いつめられ、地下水道をさまようレジスタンスたちの姿を描く。暗くて狭い地下水道を虚しく彷徨う人々が恐怖と不安に追いやられていく様は胸が掴まれる。悲惨な運命の末路は、ポーランド映画史上、強烈なエンディングとなっている。
2023/11/17 広島市映像文化ライブラリーにて。
ソ連の支配批判を世界に届け続けてきたワイダ映画の原点のような作品に…
少し前、ワイダ監督の「カティンの森」と
「灰とダイヤモンド」を観たあと、
抵抗三部作のひとつのこの作品を
図書館で見つけ、ワイダ関連で再鑑賞した。
絶望的な描写が続いた。
救いようのない地獄絵図とは
このことだろうか。
全編救いのないような展開だが、
私は画面から目を離せなかった。
後でセットだと知る作品の半分以上を占める
地下水道の場面での
ポーランド兵士の死への彷徨は、
リアリティーに溢れ、
あたかも私を同時代の目撃者に
誘うような見事な演出だった。
このドイツ軍に対する蜂起に
勝とうが負けようが、
ポーランドがソ連の支配下に入る運命だった
と考えると、
ポーランド国民に同情を禁じ得ないが、
ワイダ監督は
ソ連の検閲を巧妙にかわしながら、
「灰とダイヤモンド」から「大理石の男」
「鉄の男」等々の作品で、
巧妙にソ連の支配批判を
世界に届け続けてきたことには
頭の下がる思いだ。
私にとっては、抵抗三部作の「世代」を観る
機会は失われてはいるものの、
大国に蹂躙され続けてきた
郷土への想いをヒシヒシと感じられる
ワイダ映画の原点のような作品に思えた。
アンジェイ・ワイダ監督「抵抗三部作」の第2作目
アンジェイ・ワイダ監督「抵抗3部作」の第2作目。
1944年9月、ドイツ軍に包囲されて逃げ場が無くなったポーランド兵たちが、地下水道を通って包囲網の外へ出ようとするのだが……という姿を描いた映画。
ポーランド兵たちは、地下水道が迷路のように複雑で方向感覚が分からなくなる。また、暗闇が絶望に満ちている。
発狂する者、絶望に耐え切れずに地下水道からマンホールで地上に出てドイツ兵に射殺される者、自殺する者など……容赦なく描かれる悲劇。
そんな人々の中で、唯一、土地勘のある(地下水道を知っている)女性デイジー(テレサ・イゼウスカ)は負傷兵ヤツェック(タデウシュ・ヤンチェル)を愛しており、彼を連れていくと、絶望の中に光が見えた。これは「希望の光」に見えたが、実は「絶望の光」だった……というあたりはアンジェイ・ワイダ監督の手腕が光る。
また、地下水道の中で人物を捉えた場面では、「影を使った演出」も見事であり、アンジェイ・ワイダ監督による傑作のひとつ。
ソビエトワルシャワ蜂起
ドイツに支配されるポーランド軍。
地上の銃撃戦も怖いが、中盤過ぎから地下水道に入ってから物理的な閉鎖感も含めて緊迫した絶望感が増していく。
ひとのうめき声、幻覚、笑い声、下水汚物、有毒ガス、見てるこっちが吐き気をもよおすほどきついシーン。
人々も極限の状態でおかしくなる。オカリナ吹いて去り行く音楽家、裏切って爆弾を爆発させる。
出口の檻から対岸に二人が見たものは…“仲間を見殺しにするスターリン軍”
ラストは地上に出て部下を殺し再びマンホールを下りる中隊長、で幕。
この地下水道の行軍はレジスタンス活動へのメタファー
ナチス占領下のポーランドで起きた抵抗運動ワルシャワ蜂起で追い詰められたレジスタンスがナチスの包囲を抜け出すために地下水道に逃げ込み、出口目指して迷宮のような地下水道をさまよう話。
ナチス側は地下水道まで追いかけてこないので地下での戦闘はない。ひたすら汚水と有毒ガスや靄による幻覚などと戦う。そんなひどい状況を延々と見せられて、退屈でどうしたものかと思いながら観ていた。
しかし、途中でこの地下水道の行軍そのものがレジスタンス活動へのメタファーだと気づいて俄然面白く感じ始めた。
出口があると信じて入っていってしまうところも似ているし、入ってしまうと迷宮の中をさまよい目的すら見失っていくところも似ている。幻覚や幻想に襲われ、あるものは上官に気に入られようと嘘の報告をし、ある者はデマを流し、ある者は頭がおかしくなってしまう。この辺の類似性に気づいて監督の意図に気づき、なるほどそうか、と。
『それでも僕は帰る シリア 若者たちが求め続けたふるさと』というドキュメンタリー映画で、反政府デモをアサド政権に武力攻撃され、仲間を殺された若者たちが武器を手にしてレジスタンス活動を始める姿が克明に撮られていますが、今のシリアの状況を見てください。彼らが望んだ状況でしょうか?正に地獄のような出口の見えない迷宮にはまり込んでいるではないですか。ただ安全な暮らしがあればいいという大勢に人々を巻き込んで。そこまでして守るものってなんですか?って本当に思う。
人間の限界?
いろいろな意味ですごい映画だったと思います。もとから戦争映画は苦手なのですが、この作品はトラウマになってしまいそうなほど怖い作品だったと思います。地下の下水道の中、外にはドイツ軍がいて、いつマンホールが開いて撃たれるかわからない…下水道の中はもちろん汚物だらけで、その汚物からは有毒ガスが発生…パニックに陥り、マンホールから飛び出したり、狂ったように笑い出したり、大きな音をたてたり…自分だけが助かるように嘘をついたり…人間極限状態になれば、普通ではありえないようなことをしていく…そんなことを強く感じ、恐怖を感じました。戦争はもちろん怖いですが、人間という生き物の恐ろしさ?も同時に感じました。そして、アンハッピーなラスト…見終わっても後味が悪いし、しばらく何かをしようという気にはなりませんでした…おもわず深い深いため息をついてしまいました…
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