「原題を超えた邦題 〜 厭戦映画の傑作(殺意と敬意のハザマ)」戦争のはらわた Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
原題を超えた邦題 〜 厭戦映画の傑作(殺意と敬意のハザマ)
原題は『cross of iron』、直訳すると『鉄十字章』である。
戦功を認められたドイツ軍人に授与される勲章の名称で、
アメリカなら銀星章、日本なら金鵄勲章にあたるものと言えるだろう。
ドイツ国防軍大尉のシュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)は、プロイセン貴族の血をひく名家の出で、何が何でも鉄十字章を受勲して帰国したいと、戦功をあげることに焦り執着している。
手っ取り早く勲章をもらうには????
何で気づかなかったんだろう、そうだ!激戦地に行こう!
というノリで何を血迷ったか、敗色忍び寄る東部戦線(対ソ戦線)に志願してやってきた。
大尉の下心は、上官にも部下にも見え見えだが、猫の手も借りたい東部戦線では志願してきた大尉は貴重な戦闘指揮官である。
だが、
そんな大尉を、まるで居ないものとして扱うかのように不遜な態度で接するのが、シュタイナー伍長(ジェームス・コバーン)だ。
シュタイナークラスになれば、見るだけで分かるのだろうね、大尉が戦うために戦場に来たわけではないことが。
歴戦の下士官シュタイナーは、味方の信頼も厚く、八面六臂の活躍を見せるが、傷を負い後送される。
病院でナースといい感じになるが、根っから軍人のシュタイナーは前線に舞い戻ってしまう。
そんなシュタイナーは、武勲を讃えられ一級鉄十字章を受勲する。
しかし、シュタイナーの「勲章なんか興味ないね」、
といわんばかりの態度は、いちいち大尉の癇に障る。勲章のためには我慢我慢と自分に言い聞かせながら、一刻も早く鉄十字章が欲しい大尉は、媚び笑いをしながら、自分の叙勲を推薦するようシュタイナーに迫る。
当然のように、シュタイナーはけんもほろろの対応だ。
大尉のシュタイナーへの思いは、
・「羨望」から「嫉妬」へ
・「嫉妬」から「敵意」へ
・「敵意」から「殺意」へ
と変容していく。
(後々、さらに「殺意」から「敬意」への変化を窺わせるシーンも見られることになる)
ついに大尉は、
「俺に逆らったらどうなるか、思い知らせちゃる!」
という感じで、シュタイナーに対する逆恨み攻撃のボタンを連打してしまう。
そんなしょーもない内輪揉めしている間にも、
ドイツ軍の戦線は至るで突破され、士気は完全に崩壊し、四方八方からソ連軍が迫る中、ドイツ軍は全戦線で潰走を始める。
追い詰められたシュタイナーと大尉の運命や如何に…。
最後のシーン、『♪ちょうちょ、ちょうちょ』の調べとシュタイナーの高笑いがシンクロする。
『戦争のはらわた』、見事な邦題だ。
サム・ペキンパー監督が描きたかったのも、まさに戦争のはらわたであっただろう。
戦争映画の姿を借りた「厭戦映画」の傑作と言えるだろう。