「戦争を知らずに育った年寄りたちに見て欲しい名作」西部戦線異状なし(1930) TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争を知らずに育った年寄りたちに見て欲しい名作
第一次世界大戦を舞台にしたドイツ人作家の小説を、アメリカのユニヴァーサル・ピクチャーが映像化した元祖・反戦映画。
美名のもと若者を戦地へ送り出す側の愚かさや戦場で亡くなっていく若い兵士の悲劇を俯瞰的に捉え、戦争の不毛さをここまで痛烈に訴え掛ける映画が1930年のアメリカで製作されたこと自体が衝撃だが、映画としての完成度も極めて高いことにも注目したい。
CGなどなかった時代の破壊される実寸大のセットや大量の爆薬を使用した迫力のアクションシーンに加え、トーキー黎明期にも関わらずしっかりした対話劇としても成立させた確かな演出力などにも作り手の本気度が窺える。
本作で描かれた状況やセリフのひとつひとつが戦時下の日本と重なり、心が痛む。
休暇中のポールが自分や級友たちを戦地に送り込んだ恩師に訴えた「老人が戦争を始め、若者が大勢死んだ」という言葉は正論を越えた真理。
「国のために死にたくはない」と主張することは腰抜けや臆病者の泣き言などではなく、人間として当然の権利だと言いたい。
今の好戦的な政権が人気取りのために隣国との緊張感を高めた結果もし戦争になっても、裏金作りに勤しむ連中に煽られて戦死することは祖国を守ることや愛国心とは微塵も関係ない。
そのことを徴兵適齢期に当たる若者やそうした世代を子や孫に持つ人たちに、よく理解して欲しい。
冒頭で入隊を控えた郵便配達夫と立ち話をする商店主は「数か月で終戦だと思うがね」と気軽に言うが、兵士たちが身にする伝統的な装飾の付いた軍帽はやがて実戦的なヘルメットに変更され、ポールが休暇明けで隊に復帰するころには飛行機による爆撃も本格化し、戦友のカットの命を奪う。
いったん始めれば簡単には終わらないのが近代戦争の常だということも忘れてはならない。
NHKーBSにて視聴。
完全版と銘打っていたが、2年ほど前にBS12トゥエルビで放送されたものと較べると画質が劣るし、全長版の方が適切なのでは。
BS12トゥエルビも昔はマニアックなチョイス多かったなあ…。
