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地球連邦政府と昆虫型宇宙生物「バグズ」との惑星間戦争を描いたSFアクション『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズの第1作。
遠い未来、民主主義が崩壊した地球では軍国主義政府「地球連邦」が独裁統治を行なっていた。
ブエノスアイレスの高校生リコは、恋人カルメンや恩師ラズチャックの影響を受け、両親の反対を押し切り連邦軍に入隊する。同期の仲間たちと共に厳しい新兵訓練を乗り越えてゆくリコだったが、そんな中バグズの母星「クレンダス」が地球を攻撃。両星間で戦争が勃発する…。
監督は『ロボコップ』『トータル・リコール』の、名匠ポール・ヴァーホーヴェン。
原作はあの『機動戦士ガンダム』(1979-1980)にも影響を与えたという、ロバート・A・ハインラインによるSF小説の古典「宇宙の戦士」(1959)。
監督:ヴァーホーヴェン、製作:ジョン・デイビソン、脚本:エド・ニューマイヤー、クリーチャー資格効果:フィル・ティペット、撮影:ヨスト・ヴァカーノ、音楽:ベイジル・ポールドゥリスなど、メインスタッフは『ロボコップ』(1987)からそのまま引き継がれている。
公開当時は「ナチのプロパガンダだっ!」だの「軍国主義礼賛だっ!」だのと騒がれ、その影響もあってか興行的に大コケしてしまった作品。
実際、原作小説が刊行された当時のハインラインはガチの右翼で、「世界滅亡を防ぐためには強力な世界政府による統治が必要だ!」とか「共産主義国家の脅威を退けるために、更なる核配備が必要だ!」とか言っていたらしいので、そういう原作者のスタンスが批評家や観客の色眼鏡になってしまったのだろう。
とは言え、映画を観りゃあこの映画がそんな愛国心や国粋主義を醸成する内容ではない事は一目瞭然。これはSF戦争映画ではなく、“1億総活躍社会“や“日本人ファースト“の様な全体主義的プロパガンダを虚仮にし切った、ブラック・ユーモア満載のサタイアである。
そもそも、ポール・ヴァーホーヴェンという人がそんな「右翼バンザイ🙌」な映画を撮る訳がない。この人が生まれたのはWWⅡ真っ只中のオランダなんだから。
オランダは1940年にナチス・ドイツによって占領されてから1945年に解放されるまで、ホロコーストや粛清、飢饉などによって20万人以上の国民が命を落としている。そんな暗黒時代ど真ん中で生まれ育ったヴァーホーヴェンだからこそ、ファシズムのヤバさと愚かしさは痛いほどわかっているのだ。
彼は原作小説について「ちょっとだけ読んだけど右翼臭くて途中で辞めた」と述べる。だったら何故引き受けたっ!?とツッコミたくなるが、「この保守的な雰囲気を逆手にとればめっちゃ面白い風刺劇が作れるんじゃ?」と勘付いたのかも。この反骨精神と知性こそ、今なおヴァーホーヴェンが世界中の映画ファンから尊敬されている理由なのだと思う。
この映画に描かれるのは1人のノンポリ青年が教化され、「市民」としての責任感に目覚め、そして戦争の英雄になるまでの過程である。教育勅語にある「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」を地でゆくような展開には、一部の層が大興奮する事間違いなし。
しかし、前述した様に本作はファシズム礼賛の映画ではない。そうとわかるのは、映画のOPとEDに地球連邦が制作したと思われるPR映像が映し出されるから。いかに連邦軍が精強で、規律正しく、戦争を有利に進めているか、まるで地方の企業CMの様な爽やかさで軍人さんたちが観客に微笑みかけてくるのである。
このPRは誰の目にも明らかなプロパガンダ。その映像で本編をサンドイッチする事により、この映画で描かれている内容そのものが連邦軍がでっちあげた戦意高揚用の宣伝放送、あるいは大本営発表であると示唆しているのだ。
本作の凄みは、明らかに軍国主義やファシズムをバカにしているにも拘らず、そのプロパガンダの部分を本当に面白いSF戦争映画に仕立て上げているところにあると思う。
まずは天才フィル・ティペットが創造した虫型クリーチャーのクオリティの高さ。兵隊バグズたちの殺意を具現化したかの様なデザインは機能美に溢れており、彼らを操る知能型バグズはどこまでもグロテスク。こう言ったエイリアンの秀逸なデザインがドラマにリアリティをもたらしている。
そして、そんな怪物たちに立ち向かう兵士たちはどこまでも勇敢で、みな竹を割った様な気持ちの良い性格をしている。ブラスターや爆弾でバグズたちに応戦する彼らの姿に、観客は高揚感を抱かずにはいられない。「うぉー!兵隊さんたちみんながんばえー!!」と知らず知らずのうちに応援していたのだから、まさに自分も地球連邦のプロパガンダの術中にすっぽりと嵌まってしまっていたのだ。いや、やっぱプロパガンダは怖いっすね…。
この作品はとどのつまりは風刺の効いたブラック・コメディなのだが、とにかくSF戦争映画として非常に良く出来ている。正直、この2年後に公開される『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)よりも断然ウォーズしていると思う。
戦争映画の部分を半笑いで作るのではなく、それこそ観客が「この映画はナチだっ!」と立腹してしまうほど真剣に作る事で、それがフリとして十全に機能し、物語の風刺性に強度が宿る。やはり良質なコメディには作り手のエスプリと諧謔心、そして作品と真剣に向き合う真面目さが必要なのだと本作を観て再認識させられた。
興行的には制作費すら回収できないほどの大コケだったらしいが、時が経つにつれ作品の本質が観客に伝わる様になり、今ではディストピアSF映画の傑作としてその地位を確立。世界全体が右傾化している現在の国際情勢を鑑みると、いかにこの作品に先見の明があったのかがわかる。
ぶっちゃけ前半50分を使って描かれる青春白書はかったるくて飛ばしてしまいたくなるのだが、その後はノンストップの面白さ。娯楽性とメッセージ性ががっちりと噛み合った傑作だと言って良いでしょう。
バカでも分かるSF戦争アクションに、バカではわからない風刺を込める。さすがヴァーホーヴェン!おれたちに出来ないことを平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!
……そう言えば、『ガンダム』のOP「翔べ!ガンダム」も、実は宇宙連邦のプロパガンダだっていう説がありましたよね。「巨大な敵を討てよ討てよ討てよ」とか「正義の怒りをぶつけろガンダム」とか、これそういう話じゃねぇからっ!!
「宇宙の戦士」を元ネタにすると、どうしてもそこに描かれている地球連邦の欺瞞に目が行ってしまうのでしょうか。原作は未読なのですが、どんな内容なのか気になってきたな…。これは読むしかない…のか?