「スーパーマン爆走風雲録。 製作費削減の憂き目に遭った、“鋼鉄の男“の悲しき最後…。」スーパーマン4 最強の敵 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
スーパーマン爆走風雲録。 製作費削減の憂き目に遭った、“鋼鉄の男“の悲しき最後…。
鋼の肉体を持つ男、“スーパーマン“の活躍を描くスーパーヒーロー映画『スーパーマン』シリーズの第4作。
米ソ冷戦により核軍拡が進む世界を憂いたスーパーマンは、国連の承認を得て世界中の核ミサイルを廃棄するために行動を起こす。しかし、その裏で宿敵レックス・ルーサーが暗躍。スーパーマンの髪の毛から、彼のクローン“ニュークリアマン“を作り上げてしまう…。
クリストファー・リーヴ版『スーパーマン』シリーズの最終作。そのあまりのクオリティの低さから「史上最悪の映画」の一つとして数えられる、悪名高い作品である。
『スーパーマンⅢ/電子の要塞』(1983)が批評的にも興行的にも振るわず、続く『スーパーガール』(1984)も大コケ。この失敗を受け、シリーズの立役者であるプロデューサーのアレクサンダー&イリヤ・サルキンド親子はその映像権を手放してしまう。新たに権利を獲得したのは、事もあろうにあの「キャノン・フィルムズ」であった。
「早い、安い、そこそこ」な低予算映画を大量に手がけ、80年代ハリウッドを牽引して来たキャノン・フィルムズ。しかし、本作の製作を前に経営は悪化。資金繰りが覚束なくなってしまう。
その為、本作の製作費は土壇場で大幅に削減させられた。当初予定されていた3,600万ドルの予算は、その半分以下の1,700万ドルに。『Ⅰ』の製作費が5,500万ドル、『Ⅱ』が5,400万ドル、『Ⅲ』が3,900万ドルであった事を考えると、この額が如何に少ないかがわかる。
予算の少なさは作品の出来にモロに表れている。SFXのクオリティは低く、過去作品とは比べものにならないチープさ。合成の技術はヘナチョコで、あの魔法のようなセンス・オブ・ワンダーはカケラも残っていない。
ニュークリアマンとのアクションシーンもお粗末の一語に尽きる。予算がないならないで、もう少しアイデアとコリオグラフィーで何とかしていただきたかった。
また、当初は134分あった上映時間も、スタジオの要請により89分までカット。そのせいなのかはわからないが、ストーリーの辻褄があっていなかったり、説明不足な箇所が散見される。
特に気になるのは過去作との整合性。クラークに想いを寄せる新キャラ、レイシーが登場し奇妙な三角関係が構成されるのだが、ちょっと待ってほしい。『Ⅲ』でクラークが指輪を渡したラナ・ラングは一体どこに行ってしまったのだろうか?知らない間に婚約破棄?
この1作だけでもグダグダなのに、過去作との整合性も取れていないじゃあないか…。ほんとしっかりしてくれ🌀
とまぁ、だれが観ても問題大有りな作品であり、本作の大失敗によりアメコミ映画に革命をもたらしたクリストファー・リーヴ版『スーパーマン』シリーズはここで打ち止めとなってしまった。何とも寂しい結末である。
とはいえ、自分は世間で言われているほど本作に対して否定的な意見を持ってはいない。
リチャード・ドナー監督降板に際しサルキンド親子と揉めてしまった結果『Ⅲ』の出番をごっそり減らされてしまったマーゴット・キダーと、そもそも出演すらしなかったジーン・ハックマンが本格的にシリーズに復帰してくれた事は素直に嬉しい。プロデューサー交代がもたらした怪我の功名というヤツである。
「神的存在による平和の実現は可能か」というテーマ設定も面白い。クリストファー・リーヴが原案を担当しただけあって、スーパーマンという存在について深く思い巡らせている。
対症療法ではなく根治療法で悪を断とうとするスーパーマン。その強引な政治介入を逆手にとって世界に混乱をもたらそうとするレックス・ルーサー。核抑止は今なお多くの議論を生んでいるが、本作はそれについて考える良い教材になるのではないだろうか。…核廃絶を訴えた作品であるにも拘らず、ニュークリアマンを核の力で倒した所にある種の違和感を覚えない訳にはいかないが。
大幅にカットされた事により、物語はガタガタになったのかも知れない。ただ、90分というランタイムのおかげでダレる事なく映画が進行しているのも事実。過去作はどれも2時間を超えているのだが、それが原因で冗長さを感じる部分もあった。本来、スーパーヒーロー映画はこのくらい短い方が勢いがあって良いと思う。
その後、キャノン・フィルムズは1994年に倒産。1995年にはクリストファー・リーヴが乗馬中の事故により半身不随になり、2004年に逝去。マーゴット・キダーは90年代に入ると精神的な病に苦しむようになり、2018年に自殺。ジーン・ハックマンは2025年、妻と愛犬と共に死去している所が発見された。盛者必衰とはいうが、3人の最期を思うと人生とは何なのかを考えずにはいられない。とにかく、名優3人に安らかな眠りがもたらされる事を願う。
ちなみに、本作公開から2年後、ティム・バートン監督による『バットマン』(1989)が世界中で大ヒット。第4作『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997)までシリーズは続く。スーパーマンからバットマンへ。“鋼鉄の男“が“更迭の男“になった訳だ。
面白いのは、バットマンもまた4本目でシリーズが打ち切られてしまった事。スーパーヒーローものの寿命は4作くらいが限度なのかも知れない。