紳士協定のレビュー・感想・評価
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キング牧師の演説「最大の悲劇は…善人の沈黙である」はこの作品からの引用なのか…
「欲望という名の電車」「波止場」「エデンの東」
等、たくさんの名作で堪能させて頂いた
エリア・カザン監督だが、
この作品はこれらの前の作品にも係わらず、
制作から日本公開までなんと
40年もかかってしまったとのことで、
私がこの作品に触れることが出来たのも
「草原の輝き」等よりも後のことだった。
アカデミー作品賞映画ということで
再鑑賞したものの、
ユダヤ人に対する意識は
有色人種に対するものとは異なる
微妙さがあり、
日本人の私には理解し難い場面も
多かったが、そんなことも
日本公開が遅れた理由だったのかと
勝手に想像した。
そんな中、主人公のユダヤ人の友人が、
ヒロインを説得する台詞からは、
キング牧師の「最大の悲劇は、
悪人の圧制や残酷さではなく、
善人の沈黙である」との演説を物語化した
ような作品に感じたが、
時系列的には、彼が演説でこの作品から
引用したものだったのだろうか。
しかし、ここまで人種問題に寄り添った
カザン監督は、赤狩り事件に際は、
その政治信条から映画仲間を売る行為で
その名声を傷付けてしまう。
よく“リベラル対保守”の対立構図を
目の当たりにさせられる昨今だが、
人種差別意識と政治信条では
次元が異なることを認識させられる作品
でもあった。
暗黙のうちに慣習となっていた社会問題を告発
1947年、米国でベストセラー小説を原作に製作・公開された映画が、40年後に日本で初めて公開されたとは驚き。自由と平等の国のイメージダウンを懸念したのだろうか。確かに、日系移民の排斥運動や黒人差別については知っていたけれども、アンチ・セミティズム(反ユダヤ主義)については無知だった。
主人公の彼女の言動を見て、アメリカ人でも、良くないこととは分かっていながらも長いものに巻かれてやり過ごしていくことがあるんだな、私と同じだ、と少し安心した。「何も言わないのはダメ、ノーを言わないと」と叱られても、原作小説を書いた人のような勇気も知力もないし…。でも、映画のラストシーンの彼女のように、まずは自分の友人や知人に対してなら、自分にできることはしたいし、できそうだと思った。だから、当時、原作も映画もヒットしたのだろう。
映画の中で批判されているメディアは当時のニューヨークタイムズ紙っぽい。調べてみたところ、当時のオーナーはそちらの主義の人だったそうで、正義の報道を謳っていた割に、第二次世界大戦中のユダヤ人迫害についての記事はとても少なく、掲載されてもとても小さかったそうだ…。
古き良き米国映画らしい良心作、ただ少々物足りなさも
ライター役グレゴリー・ペック主演、エリア・カザン監督作。ユダヤ人差別に関して、傍観は勿論、口先だけでは駄目で、闘う行動が重要と説く、古き良き理想を求めていた米国映画らしい良心作。
ユダヤ人に扮してみたグレゴリーペックが、ホテル宿泊の婉曲的拒否や息子が差別を受ける等、差別を観客と共体験するのが上手い。ユダヤ人差別から距離を置こうとする恋人が、傍観者こそが差別を助長していることに気づく設定も、お見事。
ただ、深刻な差別の実情お抉るものはなく、何処か表面的で綺麗事の様で、物足りなさも正直覚えた。もう一つ二つ本質的なエピソードがあったら、さらに感動したのにとは思った。
人種差別と闘う志と処方箋
グレゴリーペック扮する妻に先立たれ幼い息子とニューヨークで暮らす人気ライターのスカイラーグリーンは、週刊スミスの編集長と会って反ユダヤ主義の企画について話した。スカイラーは、企画にあまり乗り気ではなかったが、息子にユダヤ人をどうして嫌うのかと聞かれ企画を受ける事にした。スカイラーは、企画の主であるドロシーマクガイア扮する編集長の姪キャシーを食事に誘った。スカイラーはなかなか構想が立たず苦労していたが、ユダヤ人と同じ様に暮らしてみようと思った。しかし、ユダヤ人と名乗った時からもう壁が立ちはだかった。キャシーとも意見を違えた。果たしてスカイラーは反ユダヤ主義を書き通す事が出来るのか? 人種差別問題は難しいよね。人類皆平等と言う事は頭では分かっていてもいざと言う時に心から納得出来るかどうかは分からないよな。夫婦となるふたりは、同じ価値観をもって志をひとつに一緒にがんばれる方が好ましいと言う事だ。
紳士協定というので
きっと男の友情の話なんだろうと思ったら違った。グレゴリーペックなのでもっと派手なプレイボーイの話かと思ったけど全く逆だった。私はこういった社会問題を扱った作品が地味すぎて好きではないのだが、この作品の出来栄えは認めざるを得ないかな。グレゴリーペックの真面目な姿に心打たれるものがあった。
理想と正義に燃えていたアメリカがフィルムのなかにある
理想と正義に燃えていたアメリカがフィルムのなかにある
劇中で、来世紀には……との希望に満ちた台詞がある
来世紀になった今この映画を観て振り返れば、70年後の姿は、夢と理想は揉みくちゃにされて薄汚れてしまい、現実の姿に打ち砕かれ打ちのめされてしまっている
そこには皮肉にも醜く歪んで達成された世界が絶望的に広がっている
社会派だったんだ
前知識なしで観て、社会派作品だと初めて知ったよ。
反ユダヤとか俺には分からない。
だが、観ているうちに「差別」に対する憤りがこみ上げてきた。
同時にエリア・カザン監督が映画というメディアをプロパガンダに堂々と利用してみせたことが恐ろしくも感じた。
俺は映画に感化されやすいみたいだから。
奇麗事過ぎる気もするが、この時代にこの主題を取り上げたのはやはり立派
総合:70点
ストーリー: 70
キャスト: 70
演出: 60
ビジュアル: 60
音楽: 60
ユダヤ人の後は黒人、ヒスパニック、アジア人と次々に差別問題が出てくるのだが、それでもこんな時代にとにかく差別ということををいち早く正面から取り上げたのは評価できる。
子供が虐められる場面とかユダヤ人の秘書やデイブが露骨に直接差別される場面が少ないとか、差別問題を取り扱いつつもあまりきつい表現を見せないようにしている。レストランで酔っ払いにからまれるデイブなど例外はあるものの、主に差別されるのはユダヤ人のふりをしたグリゴリー・ペック。そのあたりの物語や演出は全体におとなしめで、過激な場面を少なくして視聴者の気分を害さないようにしたのか配慮が感じられる。これも1947年という時代のせいだろうか。
差別を正面きってする人は少なくなっているものの、やはり暗黙の了解で目に見えにくい差別は存在する。差別を見逃すのも偽善というのはよくわかる。しかしそれが自分に直接関わってくると、人のために自分を犠牲にして戦うという覚悟がいるわけで簡単ではない。デイブではないが日本でも外国人がアパートを見つけるのは簡単ではないと聞く。映画の内容は教科書どおりの主張で奇麗事に聞こえすぎる部分もある。それでもやはりこの時代にこんな主題を取り上げただけでも充分に立派。日本では琉球人問題も同和問題も在日朝鮮人問題もこの時代の映画に取り上げたことはなかったのではないか。人種の坩堝で差別が多いと言われるアメリカだが、その問題にいち早く気がつき進んで取り組んだのもアメリカかもしれない。
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