シャインのレビュー・感想・評価
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実在の天才ピアニスト、デイビッド・ヘルフゴットの栄光と悲劇
青い空に向かって両手を広げる男性のメインビジュアルが以前から気になっていて、いつか観よう観ようと思っていた作品。1995年に公開され、アカデミー賞を受賞した名作であることは知っていました。今回、「映画.com ALLTIME BEST」に選ばれていたのでこれを機に思い切ってAmazonプライムビデオにて鑑賞してみることにしました。
実在の天才ピアニスト、デイビッド・ヘルフゴットの半生を描いた作品だと知り驚きました。そして、彼は2024年現在もご存命であることを知り、より感慨深い思いに耽りました。この作品は、彼の栄光と苦悩の半生を描いていますが、天才ピアニスト、デイビッド・ヘルフゴットの人生を語るとなると、もうひと作品「デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり」もセットで観たくなります。こちらの作品は2015年に公開されたデイヴィッドのその後の人生が描かれた初のドキュメンタリー作品です。彼が精神病院に11年も出入りし、奇跡の復活を果たせたのは映画「シャイン」の終盤で登場した愛妻ギリアンの存在があったからに他なりません。今作品では、彼が天才ピアニストになるまでの過程と精神を病んでからの苦悩が中心に描かれていて、そこからの復活シーンは、終盤のほんの数分に集約されているので、少し物足りなさがありました。もっともっとその後の妻ギリアンとの幸せな人生を観たいと思ってしまいます。なので可能であれば、彼の半生に関するこの映画2作品を丸ごと1本にした映画をいつか観てみたいなぁと強く思いました。
どんな天才の影にもそれを支えるたくさんのサポーターが登場します。それは、ピアノの英才教育をした父であり、その時々で出会った先生であり、彼の後半の人生を支えた妻の存在であったりします。ただこの映画における父の存在は、ピアノを教えてくれたサポーターであると同時に、愛という名のもとに全てを支配しようとした毒親でもありました。愛は行き過ぎると毒にもなります。才能も有り余るとそれを持つひと自身を壊し始めます。天才とは、人の努力では至らないレベルの才能を秘めた人物を指します。それは常軌を逸した努力を積み重ねた結果であり、その行き着く先はいつも輝く栄光のステージだとは限らないことをこの映画は教えてくれます。時に芸術家は、魂(自分)を削って、作品を紡ぎ出すといいます。それこそが、常人には真似できない天才こそが成せる技なのだと思います。そして天才であるが故の悲劇は、一度手にしてしまったその才能を無かったことにはできないことにあります。自分をいつ攻撃するかもしれないその才能と一生添い遂げていくしかないのですから…。
けれども、愛はいつでも何度でも、人生やり直せると教えてくれます。そして、苦労して身につけた芸(才能)は、最後は自分自身を助け、幸せにしてくれると信じたくなります。
先延ばしにせず、今鑑賞しておいてよかったと心から思いました。メインビジュアルにピンときた貴方は、ぜひ一度ご鑑賞なさってみてください♪
毒親の呪いは、時間差で襲ってくる説
主人公の半生モノ映画は、時間が足りない、
と感じる事が多くなるのは、映画の常。
シャインの場合、終盤の、ギリアンとの馴れ初めや、
共に人生を歩むくだり付近は、
だいぶ駆け足になったのは残念だったが、
それ以外の部分は、過不足なく、
うまく物語がまとまっていたので、見やすかった。
見どころはやっぱり、終盤の演奏シーン。
これに尽きる。
本当に弾いているように見せる役者の演技、躍動感。
実際に聴こえてくる、圧巻の演奏と音色。
ただの変人だと思ってた眼鏡オジサンが、
実は天才だったと分かった瞬間の、
バーの観客達の、あの顔。
映画を観ている観客のほぼ全員が、
どうだ、凄いだろ?と、
ドヤ顔できるあの瞬間が、たまらなく、好きだ。
物語の前半パートは、なかなかシンドイ展開。
幼少期から青年期まで、
毒親親父に「ダブルバインド」の呪いをかけられ、
ストレスにより、統合失調症が発動する。
主人公が豪州から英国に留学したのだから、
父親の精神支配や物理的虐待は、
直接的な原因ではない、
と思ってる人が散見されるが、それは間違った解釈だ。
ダブルバインドのストレスやトラウマ、発病というものは、
時間差で襲ってくるし、遠隔で発動するものだ。
なぜなら、私がそうだったからである。
私にも毒親の父親がいる。
私にとってのダブルバインドは、たとえば幼少期に、
自由に生きなさいと言われ育ったのに、
大学進学以降は田舎に早く帰れ、転職しろと言われた。
これはまだ序の口で、一番キツかったのは、
酒癖の悪い父親は、悪友の飲み仲間と毎日のように飲み歩いていたが、
私をその場に呼んで、連れ回そうとするのだ。
酒に溺れ、酒に呑まれた父親を見るのが嫌いで、
私は飲み屋に行く事を拒否するのだが、
嫌々その場に行き、つまらなそうにしていると、
突然、連れてくるんじゃなかったと激怒し、
タクシーに私一人だけ乗せ帰らせるのだ。
これが一番キツかった。
つまり父親は、私を愛しているのではなく、
私を愛す、父親として振る舞う「自分自身が好きなだけ」なのだ。
父親の、慈愛ではなく、自己愛のための、ツールとしての息子。
これを、幼少期の段階ですでに私は気づいていた。
他にも、物理的虐待こそ無かったものの、
精神的経済的虐待と呼ばれる、
トラウマやコンプレックスの時限装置は、
いくつも仕掛けられたように思う。
主人公の父親は、ホロコースト経験や、自身の父との関係性ゆえに、
息子にダブルバインドの呪いを、かけてしまったようだが、
確かにこの父親は、私の父と同じように、息子を愛しているのだろうけれども、
その愛は、本当の愛のようで、実際の所は、
自己愛性人格障害の結果だと推測できる。
ゆえに、父親は「お前は運がいい」と、
自身が与えられなかった音楽の道への機会を、自分が与えてやったんだと、
自分の功績を「過大評価している」のである。
そして、ラフマニノフという楽曲へ、遠隔装置、時限装置としての呪いをかけ、
主人公は時間差で、気が狂うのだ。
私の場合は、呪いに対して、気づきがあったゆえに、
主人公ほどの発病は無かったが、やはり、父親から離れ、
数年後の大学生の時に、少々の鬱状態にはなった。
なので、発病後、父親と主人公の間に空白の期間があるのは当然だし、
そこに下手な和解もいらないと思う。
あの再会のシーンは、余計だなと個人的には思うし、
父親の墓参りで見せた、主人公の意外と冷めたリアクションは、
逆に必要だと思う。
それにしても、主人公は優しい人間だ。
父親に対して、憎しみの感情がほとんど見られない。
私なんて、憎む事でしか耐えられなかったのに。
そういう優しさが根っこの部分にあるから、
彼は色んな人と出会い、そして支えられ、「生き残っている」のだろう。
彼はやっぱり、運がいい。
なーんだ、私ってやっぱり運が悪いんだなとつくづく思うのだった。
誰か助けてくれー。
【”輝けるデイヴィッド・・。”今作は、天才ピアニストを育てた、様々な人の様々な愛の形を描いた作品である。精神に異常を来したデイヴィッドを演じたジェフリー・ラッシュの姿が印象的な作品でもある。】
ー 苦難を克服した実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドの半生を描く音楽ドラマー
■デイヴィッドは幼少の頃から高圧的で厳格な父、ピーター(アーミン・ミューラー=スタール)にピアノを仕込まれ、天才少年として評判になる。
やがて留学の話が出ると父は自慢げだったが、急に態度を硬化させた。
著名な作家、キャサリン・プリチャードの励ましで家を出たデイヴィッドはセシル・パーカーに師事するが、徐々に精神に異常を来していく。
◆感想<Caution 内容に触れています。>
・自らが、音楽家としての道を父に遮られたピーターの息子に対しての、複雑な気持ちがやや分かる気がする。
ー デイヴィッドが名を馳せるまでは、厳しく指導するが自分を越えようとする息子への、嫉妬にも似た気持ち。-
・だが、デイヴィッドは自らの意思で、英国王立音楽院に進学するも、徐々に精神に異常を来していく。
ー この様を、若きジェフリー・ラッシュが吃音を混ぜながら、絶妙に演じている。-
・ある日、デイヴィッドは街中のパブに置いてあるピアノを見つけ、見事なる演奏を披露し、喝采を浴びる。そして、終生を共にしたギリアン(リン・レッドグレーヴ)と出会う。
ー だが、その新聞記事を見た、父、ピーターがやって来ても会わず、父は寂しげに去っていく。
<ラスト、デイヴィッドとギリアンは、今は亡き父、ピーターの墓参に来る。
全てを赦したデイヴィッドの表情は爽やかだ。
今作は、天才ピアニストを支える人々の様々な愛の形を描いた作品である。>
寄り添うということ・・・いい作品でした。
厳格で屈折した愛情を注ぐ父親の元、才能を開花させていく青年期のデビッド・ヘルフゴッド(ノア・テイラー)の苦悩する姿や、繊細な表情に目が離せませんでした。
ピアノの音色がとても繊細で優しいのですが、デビッド・ヘルフゴッド自身の演奏だと後で知り、なるほど🤔
でした。
彼に支援の手を差し伸べる人々との交流(女流作家との心の触れ合いの場面が特にいい )、助言や励まし、賞賛、そんな彼らの心のこもった言葉や笑顔に、とても温かい気持ちになりました。
デビッド・ヘルフゴッドさんの事は、この作品で初めて知りました。
NHK - BSを録画にて鑑賞
音楽の神は悪魔の様に残酷で、聖母の様に温かい。
実在するオーストラリアのピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドの波乱に満ちた半生を描いた伝記映画。
デイヴィッド・ヘルフゴッドを演じるのは、当時は舞台俳優で映画出演の経験がほとんどなかった、オーストラリアを代表する名優ジェフリー・ラッシュ。本作でオーストラリア人で初となる、演技部門でのオスカーを獲得した。
👑受賞歴👑
・第69回 アカデミー賞…主演男優賞
・第54回 ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)…主演男優賞
・第21回 トロント国際映画祭…ピープルズ・チョイス・アウォード
・第2回 放送映画批評家協会賞…主演男優賞
実在するピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドの半生を映画化した作品だが、作中の出来事は事実とはかなり異なる様です。
実際はお父さんとの仲は悪くなかった様だし、精神病院に入院する前にギリアンとは別の女性と結婚していたらしい。
映画ではラフマニノフの第3番に取り憑かれたことが精神病の原因として描かれていたが、これも事実とは異なるらしい。
完全な伝記映画というよりは、デイヴィッド・ヘルフゴッドの人生を基にしたフィクションである、という認識で鑑賞するのが正しいのでしょう。
まず映画の冒頭で精神疾患を患っているデイヴィッドを提示し、その後彼の少年時代まで遡り、彼がどのような人生を歩んできたかを描く。
彼はめきめきと頭角を現し、イギリスの王立音楽院の奨学生にまで登り詰める。
しかし、冒頭の描写により彼がこの後精神疾患を患うことを知っているため、観客としては彼の快進撃を複雑な思いで見届けることになる。
いつどこでどんなふうに発症するのかが気になり、興味の持続が途切れない。映画の作り方として実に上手いと思う。
デイヴィッドを抑えつけ支配しようとする父親。
暴力と優しさを使い分けることでデイヴィッドの心を縛りつける。
このクソ親父がっ!と思うのだが、この父親の彼を愛する気持ちは嘘偽りがなく、偉大な音楽家に育てたいという欲が歯車を狂わせていく感じは観ていて実に切ない。
世界一難しいと言われるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番に取り憑かれ、精神を患うデイヴィッド。
ラフマニノフへの異常なまでの執着というのは、もうちょっと濃密に描いてもよかったかも。
これだけピアノ弾きまくってたら、そりゃ頭もおかしくなるわ、と思ってしまうような、常軌を逸したトレーニングをしている場面をもっと見せて欲しかった。
これまで鬱々とした描写が続いていたので、精神を病んだデイヴィッドがバーのピアニストとして復活する場面のカタルシスは凄まじい。
その後、絶縁状態だった父親との再会の場面を、過剰に感動的にせず、抑えた演出で見せてくれるところとか、実に品が良い。
お父さんのメガネのレンズにヒビが入っていて、それをセロハンテープで補修しているところとか、観ていてめちゃくちゃ侘しい気持ちになった…
ただ奥さんとなるギリアンとの出会いの場面はもうちょっとなんとかならんかったのか。
彼女と恋に落ちた過程とかイマイチよくわからなかった。
この映画、前半はたっぷりと時間を使ってデイヴィッドの転落を描くんだけど、後半のデイヴィッドがピアニストとして再起してからの描写がなんかスカスカ。
もっとデイヴィッドのピアニストとしての活躍とか、ギリアンとの恋愛とかをしっかり描いてもよかったと思う。
とはいえ、単独リサイクルを開き、観客からの大きな称賛を浴びたデイヴィッドの表情を見た瞬間この映画の不満点も全て許せました。
クライマックスのあの場面は本当に素晴らしい。ジェフリー・ラッシュが世界中から称賛されたのもわかる。
デイヴィッドが涙を流すのと同時に、私も涙を流していました😭
音楽によりどん底まで落ちてしまった男が、音楽によって再び光を浴びることになる。
音楽の持つ残酷さと優しさという両方の側面を、一本の映画で上手ーく表現していますねぇ。
全てを失った男が再起を果たすという物語、これを嫌いな人間っている?
僕は生きている、生きなくちゃいけない、という最後のセリフも素晴らしい。
心が温まるような美しい作品でした。
ラフマニノフ
バーにヒョコヒョコ現れ、演奏しちゃうシーンが印象的です。
父親との絡みも、厳しいながらも(天才息子にピアノを教えるのは限界だったとは思いますが)愛情は伝わってきていた為、一人立ちした息子に電話ボックスで電話をしているシーンで切なくなりました。眼鏡壊れてるし…
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