「マーロンと牛」地獄の黙示録 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
マーロンと牛
“The horror! The horror!“
評判通りの凄さ。
恐らく撮影自体が狂気の沙汰。
進んで地獄に入ったはいいものの、血迷って上手い出口が見つからなくなったような流れすら感じます…。
離婚してまで戦地に戻ってきたWillard。
彼自身充分戦争で「おかしくなっている」一人なのだけど、軍も手に負えなくて困るほど「もっとおかしくなって」暴走中のKurtzを探し出し暗殺する極秘任務を請け負うことに。
輝かしい経歴を持つ軍人の中の軍人だったKurtz。彼の捜索が、更なる地獄を経験する旅となり、Kurtzに自分を重ねていくWillard。実際前任者はKurtzに共鳴して任務を失敗していました。果たしてWillardは任務を遂行できるのか、それとも…。
ヌン川を上るほど狂気が増していく戦地。
最初のKilgoreは、欲しいもののためなら手段を選ばない米国の偽善を分かりやすく表していました。絶好のサーフポイントを得るために村を爆破!ブラックユーモア過ぎて、銃撃にも爆弾にも動じないKilgoreの姿に不謹慎ながら笑ってしまいました。手榴弾を投げた女性らを”savages”と罵るのですが、いや、そう言うお前はどうなんだって。
次の慰問ショー、そして指揮官不在のエンドレスな戦闘は、照明やカラフルなネオンが明るくて、煩悩のファンタジーに迷い込んだようでした。ここからKurtz帝国まで、個人的にはとても非現実的に感じて、ほとんど悪夢のように見えました。
ヌン川自体が地獄絵図とも取れるし、川が地獄へと続く道と考えるなら、最後のド・ラン橋までがこの世、向こう側のKurtz帝国が地獄ですかね。
Kurtzが、
“You have to have men who are moral and at the same time who are able to utilize their primordial instincts to kill without feeling, without passion, without judgement. Without judgement! Because it's judgement that defeats us.”
と語った後、ハエがまとわりつくのですが、確かに、ハエや蚊を叩きのめす時に躊躇していたら逃げられるなぁ…と。
加えてWillardが、この「”judgement”抜きに人を殺せる人物」であることをKurtzは見抜いていたのかなぁと思いました。
正義や愛国心を入り口として入隊しても、前線の空気は欺瞞と偽りに満ちていて、嗅ぐのは常に血の匂いと死の恐怖。
地上で悟りを開くのが仏なら、Kurtzは地獄の底で悟りを開いてしまったのかな。究極の部隊で臨むことこそ戦争に必要なのだと。
Willardが鉈を放り投げると現地人も武器を捨てる所や、無線を切って空爆を止める所に少し救いを見い出すのは楽観的過ぎでしょうか…。
アカデミー作品賞にノミネートされていますが、受賞したのは”Kramer vs. Kramer”…なるほど。時代背景も考えると納得…する?しない?
前半までは史上最高と言ってもいいくらい素晴らしいのですが、後半は評価が分かれそう…で実際分かれているのでしょう。
なかなか全身が映らない謎のKurtz。Marlon Brandoの肥満体を隠し、ミステリアスな雰囲気も醸し出す、一石二鳥の影でしょうか?!同時進行で行われる牛の屠殺方法が残酷でした(>_<)。
それでいて、慰問ショーをフェンス外で眺めながらご飯を食べる現地の子供や、問答無用に可愛い子犬など、地獄には不釣り合いな和み要素も入っていました。
途中までCleanがL. Fishburneとは気付きませんでした…細い!!
邦題のインパクトも負けず劣らず素晴らしい(^^)。
戦争の恐怖、狂気、欺瞞に体当たりしている映画でした。
“I've seen horrors, horrors that you've seen. But you have no right to call me a murderer. You have a right to kill me. You have a right to do that, but you have no right to judge me. “
“Horror! Horror has a face, and you must make a friend of horror. Horror and moral terror are your friends. If they are not, then they are enemies to be feared. They are truly enemies.”